6&4

アイルランドの本(小説・児童書・YA)を紹介するブログです。

紹介:Almost Love

本情報

Almost Love (English Edition)

Almost Love (English Edition)

 

ジャンル:愛、フェミニズム

ページ:314

Kindleだと1章まで試し読みができます。

あらすじ

Sarah(サラ)は恋に落ちてしまった。20歳年上のMatthew(マシュ―)に。

友人には心配され、父からは許しを得られず、仕事も失いかける。それでもサラはマシュ―との別れを選ぶことができなかった。愛のために全てを犠牲にした女性の話。

試し読みしての感想

マシューはお預け

試し読みの範囲でマシューは出てきません。というか、サラは別の男性と付き合っているようです。冒頭はサラが恋人との約束をドタキャンされて少し喧嘩するシーンから。

サラはとても夢見がちというか、相手に何かしてもらえることを期待します。気まずい雰囲気のまま恋人が仕事へ行ってしまった後、「さっと戻ってきて愛してるって、サラが許してくれないと1日が楽しくないんだって言ってくれないかなあ」とひたすら待っているのがそれを顕著に表していると思います。そういうとこだぞ、サラ。

よく上記のジャンルを書く時に海外のブックレビューサイトGoodreadsを見て参考にしているのですが、今作のレビューは評価が2分されていました。低評価にしろ高評価にしろ、サラのことは好きになれない、と書いていた人が多かったように見えました。これは作者があえてこういうキャラ付けにしたのでしょうか。

著者について

コーク州出身。普段はヤングアダルトを中心に書いていますが、今作は大人向けのようです。

以前紹介したThe Surface Breaksの作者です。1年で2作とは多作な方です。

紹介:Skin Deep

本情報

Skin Deep

Skin Deep

 

ジャンル:ミステリー

ページ:368

Kindleだとプロローグと1章まで試し読みができます。

あらすじ

Cordelia Russell(コーデリアラッセル)はシャワー室で血を洗い流していた。寝室にはまだ死体があるだろう。

小さい頃、アイルランドの小さな島で暮らしていたコーデリアは父に可愛がられ、時に女王様気分になっていた。成長して南フランスのコートダジュールで暮らすようになっても彼女は気取った女性のフリをしていた。しかしその生活も破滅を迎えることになる。

試し読みしての感想

beauty is only skin deep, but ugly goes clean to the bone

美しさは表層のもの、醜さは内からにじみ出るもの、といったところでしょうか。アメリカの作家ドロシー・パーカーの名言であり、今作の最初に引用されています。そもそも、本の題名がこの名言から取ったものですね。

主人公コーデリアは正にこれを体現したような存在です。甘え上手でおそらく見た目も美しく、人の懐へ入っていくのに抵抗感がありません。男性?お食事をおごってくれる存在でしょ?くらいに思っていそう。読んでいる分にはおもしろいキャラクターですが、身近にいたら嫌かもしれません。

ナルシシズム

間違いなくコーデリアはナルシストです。幼い頃から、自分のために島全体が険悪なムードになった時には「私、トロイア戦争を引き起こしたヘレネーみたい!」と喜ぶ始末であり、堂々と「パパがこの世で一番愛してるのはママじゃなくて私」と考えています。幼いながら恐ろしい子……!

そんな傾国の美女感のあるコーデリアですが、死体、それも恐らく自分が殺した人物を前に冷静すぎるほど冷静に対処しています。かつ、載っているあらすじを読むと「そろそろ蝿もわいてきた」といったような一文もありました。彼女、サイコパスなんじゃないかと疑ってしまいます。倫理観のない美女もそれはそれで良いものですが、やはり現実では関わりたくありません。

著者について

ダブリン出身・在住。テレビ脚本などを書いていて、2014年に作家デビュー。2作目のLying in Waitが大ヒット、受賞しています。

紹介:Bank

本情報

ジャンル:YA、経済

ページ:224

Kindleだと4章まで試し読みができます。

あらすじ

Finn(フィン)がある日、変なことを言い出した。貯めたお金をクラスの友人に貸して銀行の真似事をするのだと。金を借りたい友人はたくさんいた。あっという間に契約書のようなものまで取り交わしてフィンはすっかり銀行家きどりだ。Luke(ルーク)は一緒にやらないかと誘われはしたが、いまいちフィンの行動についていけなかった。その間にも金を借りたい友人は集まってくる。

試し読みしての感想

子ども銀行

どこかで似たような話を聞いたか読んだかしたような気がするのですが、子ども同士で「銀行」と称してお金を貸し付けるお話です。この仕組みを考えたフィンは完全にシステムを理解しているようですが、子どもである周りの友人たちにどこまで通じるのか。

簡単に踏み倒されたり、利子のことを理解してもらえずトラブルとかあり得そうです。

話が動くのはこれからか

試し読みの範囲では、ひたすらにフィンが自分の開いた銀行の説明をし、実際にお金を貸して貸借証明をもらうまでを追い掛けていきます。その間、主人公ルークは驚いたり戸惑ったりといったところ。まずはフィンの考えた銀行の何たるかの説明にページを割いている感じですね。

ルークがフィンの話に乗るのか、それとも批判的な立場になるのか、あるいはフィンの計画はうまくいくのかなど話が大きく動くのはこうした「銀行」の仕組みがきちんと明らかになってからなのでしょう。章ごとのページが少ないのでサクサク読み進められますね。

著者について

ダブリン在住。児童書の他にテレビの脚本や、フリーランスとしてIT系の記事も書いているそうです。ふり幅がすごい。

紹介:Mollie On The March

本情報 

Mollie On The March: 2

Mollie On The March: 2

 

ジャンル:歴史、女性参政権

ページ:352

Kindleだと2通目まで試し読みできます。

あらすじ

1912年、Mollie Carberry(モリー・カーベリー)と親友Nora(ノラ)は女性参政権獲得のために奮闘していた。実際の参政権がどんなものかはよくわかっていなかったが、大きな運動が起きると聞いて2人は参加することに。しかし2人には大きな障害がいくつも立ちふさがる。

まだ英国連邦の一部だったアイルランドにおける女性参政権運動について、歴史的事実を元に手紙形式で綴っている。

試し読みしての感想

ユーモアまじりで読みやすい

手紙形式だからなのか、非常に読みやすい文体です。モリーは親しみをこめて手紙を書いてくれているので最初から好きになっちゃう。

そして書き出しが「牢屋暮らしではありません」。少しおもしろいですが、女性参政権を手にしようと活動しただけでその心配をしなければいけない時代には恐ろしいものがありますね。とはいえ、彼女らも彼女らで運動の一端として窓ガラスを割って回ったりしているのですが。

モリー参政権についてよくわかっていないからなのか、活動についてとても前向きで明るいです。少なくとも怒りが原動力という感じではないので話があまり重くならず読み進められます。話が進むにつれ、徐々にモリーも女性参政権の何たるかを知り、本格的に活動へ参加していくことになるのでしょうか。

著者について

ダブリン出身、ジャーナリスト。子ども向けの作家ですね。

モリーを主人公にした小説は2作目。1作目は“The Making of Mollie”という題。日々に退屈していたモリーはある日姉が女性参政権活動家だと知って……という話になっています。

紹介:Ireland's Green Larder

本情報 

Ireland’s Green Larder: The story of food and drink in Ireland

Ireland’s Green Larder: The story of food and drink in Ireland

 

ジャンル:ノンフィクション、料理

ページ:352

Kindleだと1章まで試し読みができます。

あらすじ

アイルランドの食事の歴史を概説した本。

女王メイヴがチーズに頭ぶつけて死亡したことをチーズメーカーに聞きに行ったり、ジョナサン・スウィフトが鮭に文句言っていたのを取り上げたりと、庶民の生活に焦点を当てた風俗本。

試し読みしての感想

You are what you eat.

試し読みできる1章の範囲では、アイルランドにおける食料事情を年代順にざっくり説明してくれています。なかなか厳しい。

あまり食料が満足に確保できなかった層と、それなりに裕福に暮らしていた層でわかれるわけですが、両方の描写があるのが嬉しいところ。どちらかといえば農民や庶民の方にフォーカスが当たりがちですが。どこぞの誰かが考えたコースメニューなどが載っているなど、当時書かれた文献の引用が多くあります。正直に言って目次を読むだけでおいしそう。

そして試し読みの最後、2章の初めに書いてあった文章が印象的でした。曰く、

Three things that keep the world alive: the womb of a woman, the anvil of a smith and the udder of a cow.

世界を回すに必要なのは3つ。女性の子宮に、鍛冶屋のかなとこ、そして牛の乳。 

どうやらこれはアイルランドのTriads(三題歌)をもじったもののようです。そんな出だしの2章はもちろんバターと牛乳の話です。

著者について

雑誌の編集者をやっていたそうです。ジャンルは食文化。寄稿した雑誌には錚々たる有名誌ばかり並んでますね。

今作が2作目、1作目は口伝の歴史を集めた本のようです。これもおもしろそう。

Dublin Literary Award2018ショートリスト

Dublin Literary Awardとは

年に1度発表される国際的な文学賞。英語で出版された、あるいは英語に訳された本がノミネート対象になります。

英語で書かれた本であれば、2016年1月1日~同年12月31日までに出版されたもの。他言語であれば、2012年1月1日~2016年12月31日までに原作が出版され、2016年1月1日~同年12月31日までに英語へ翻訳出版されたもの、が今年は対象になるそうです。

今年で23年目。国際的文学賞ですがダブリンに拠点を置く企業とダブリン市図書館などの後援を受けているためこの名称になっています。

公式HPはこちら→International DUBLIN Literary Award

日本語のWikiありました→国際IMPACダブリン文学賞 - Wikipedia

ショートリスト作品

Baba Dunja's Last Love(著:Alina Bronsky) 

ドイツ語からの翻訳。翻訳者はTim Mohr。

チェルノブイリが故郷のBaba Dunjaという女性の後年を描く物語。

画像がなぜか出てこなかったのですが、かわいらしい&意味深な表紙です。

The Transmigration of Bodies(著:Yuri Herrera) 

The Transmigration of Bodies

The Transmigration of Bodies

 

スペイン語からの翻訳。翻訳者はLisa Dillman。

スペインのアングラな世界を書いた犯罪小説。ダークヒーローもの。

The Unseen(著:Roy Jacobsen )

The Unseen: SHORTLISTED FOR THE MAN BOOKER INTERNATIONAL PRIZE 2017 (English Edition)

The Unseen: SHORTLISTED FOR THE MAN BOOKER INTERNATIONAL PRIZE 2017 (English Edition)

 

ノルウェー語からの翻訳。翻訳者はDon Bartlett・Don Shaw2名。

小さな島に暮らすある家族をめぐる物語。

Human Acts(著:Han Kang)

Human Acts

Human Acts

 

 韓国語からの翻訳。翻訳者はDeborah Smith。

1980年の光州事件を元にした物語。著者はブッカー賞受賞で一躍有名になったハン・ガンですね。

他言語のものの英訳から、邦訳された同作品を探すのは非常に難しかったのですが…恐らくあらすじから見て『少年が来る』という題で邦訳出版されています。

少年が来る (新しい韓国の文学)

少年が来る (新しい韓国の文学)

 

The Lesser Bohemians(著:Eimear McBride ) 

The Lesser Bohemians (English Edition)

The Lesser Bohemians (English Edition)

 

 アイルランド出身、女優志望の18歳の女の子が運命の人に出会うのを夢みてロンドンへやってくる話。

Solar Bones(著:Mike McCormack) 

Solar Bones

Solar Bones

 

 死者が蘇る日の話。

 Distant Light(著:Antonio Moresco ) 

Distant Light

Distant Light

 

イタリア語からの翻訳。翻訳者はRichard Dixon。

山奥で孤独に住む男と、森の中に1人で暮らす少年の話。

Ladivine(著:Marie Ndiaye) 

Ladivine (English Edition)

Ladivine (English Edition)

 

フランス語からの翻訳。翻訳者はJordan Stump。

3世代にわたる親子の話。

作者マリー・ンディアイの小説はいくつか邦訳されていますが、今作は未邦訳のようです。

 The Woman Next Door(著:Yewande Omotoso )

The Woman Next Door: A Novel

The Woman Next Door: A Novel

 

 ケープタウンに暮らすお隣さんを描いた物語。汝の隣人を愛せよ、がテーマみたいですね。

ちなみに、実際のノミネートはChatto & Windusから出版されたものですがamazonに画像が見当たらなかったので上記画像は別の出版社のものを使用しています。

My Name is Lucy Barton(著:Elizabeth Strout) 

My Name Is Lucy Barton: A Novel

My Name Is Lucy Barton: A Novel

 

ニューヨークで入院しているルーシーを主人公にした連作短編集。

著者エリザベス・ストラウトは日本でも有名なのではないでしょうか。今作も邦訳されています。

私の名前はルーシー・バートン (早川書房)

私の名前はルーシー・バートン (早川書房)

 

英訳本の位置

ショートリスト11作中6作が外国語(英語外)からの翻訳です。自分の知識が古くて恥ずかしいのですが、かつて英語圏での翻訳というとひどいものが多いとされていました。誤訳も多いし内容が変わってしまっていることもしばしば。何より翻訳者の地位が低く、名前さえ本に載せてもらえないことが普通だったとか。

今回は翻訳者の名前がガッツリ載っていましたし、ここ数年でだいぶ英語圏の翻訳事情も変わったのかもしれません。

ヴァルター・ベンヤミンはかつて、翻訳とは作品を今に蘇らせ「死後の生」とすることでそれを名作に押し上げるのだと述べました。また、全く原作に忠実な翻訳など不可能であるとも。(「翻訳者の使命」)

上記を見ても、ショートリストにのるほどいい作品とされているのに、邦訳が出ている小説はごくわずかです。英語圏の翻訳が充実するのは、より多くの読者を獲得するという意味でいいことなのでしょう。そして原作語が読めない私にとっても。

受賞作は6月13日に発表されます。それには間に合わないまでも、ショートリスト作品、少しずつ読んでいきたいと思います。

紹介:Listen for the Weather

本情報 

Listen for the Weather (English Edition)

Listen for the Weather (English Edition)

 

ジャンル:結婚、浮気、移住

ページ:272

Kindleだと2章?まで試し読みができます。

あらすじ

Beth Rogers(べス・ロジャース)は少し前にアイルランドからニュージーランドへ引っ越してきたばかりだった。夫Steve(スティーブ)も、子どもたちも皆幸せそうだ。ベスもゴシップ好きで仕切り屋の母から離れられて悠々自適に暮らしていた。

1週間後、スティーブの元へ1通の手紙が届く。それは彼が浮気したという女性からのものだった。かつて1度の浮気を許したベス。今回も許すべきなのか悩む。

試し読みしての感想

移民として

アイルランドからニュージーランドへ、北半球から南半球へやってきたベス。その1番の感想が「暖かくて穏やかな気候」でした。リアルというかなんというか。確かに旅行でも海外へ行ったときに最も印象に残るのは天気と匂いかもしれません。

アイルランドも年間を通して穏やかな気候です(今年は珍しく大雪や寒い日が多かったようですが)、2℃~18℃くらい。ニュージーランドは2℃~23℃ほど。それほど違いがあるようには見えませんが、ベスの見え方は違います。ニュージーランドはひたすらにポジティブに描かれます。気候も、子どもたちの教育関係も、べたべたする潮風も、普通なら不快なことでもベスにとっては新鮮で良く見えています。アイルランドは田舎でコミュニティが狭く、全く良い風には見てもらえません。自分の国の良い所というのは、中々気付かないものなのかもしれません。

さらにベスは「海外で部外者となるほうが、故郷で部外者となるよりよっぽどいい」とまで言っています。そんなにアイルランドで生きづらかったのは、スティーブの過去の浮気とも関係があるのでしょうか。

著者について

1974年、ダブリン出身。何作か出版、受賞歴もあります。

ご自身もダブリンとニュージーランドを行ったり来たりの生活だとか。