6&4

アイルランドの本(小説・児童書・YA)を紹介するブログです。

レビュー:ミラクル

本について 

ミラクル

ミラクル

 

ジャンル:家族、児童書

ページ:215 全22章+フィナーレ

あらすじ

ミランダは想像力の豊か(すぎる)子だった。病気がちな姉、意地悪ばかりするクラスメイト、想像力のない友人、変なジョークばかり言うおばあちゃんにイライラしながらも、それなりに楽しく毎日を送っている。ひょんなことから自分にはミラクルを起こす力があるんじゃないかと思ったミランダは、姉のためにあることを計画する。

登場人物

ミランダ・A・マグワイア

主人公。作中では言及がなかったと思うのですが、たぶん小学校中学年くらいでしょうか。ひねくれ者。文章能力と想像力が高い。ルーシー・ファーという、ミランダの前でだけしゃべるぬいぐるみが大好き。

ミランダというとシェイクスピアテンペスト」の彼女を思い浮かべてしまいます。そもそもミランダはミラクルと同じ語源。だから当然なのかもしれませんが、ミラクル・ミランダで頭韻を踏んでいて良い感じです。

ジェンマ・マグワイア

ミランダの姉。16歳。入退院を繰り返している。

作中はミランダの視点で進むため、ジェンマが何の病気なのか、病院でどんな風に過ごしているのかはほとんど描かれません。

ダレン・ホーイ

ミランダのクラスメイト。意地悪。

ああクラスに1人はいるよね、という感じの子です。

キャロライン・オローク(通称COR)

ミランダが4歳の頃から親友。サッカーが得意で、乙女チックなものが好きではない。

良い子ではあるものの、ミランダは時々イラッとしているようです。それでも大好きと思っているところ、本当の親友感があって好き。

感想

ミランダの世界

この小説は完全にミランダの視点で進んでいきます。1人称。だから、ミランダの知らないことは読者も知りようがありません。

例えば姉の病名も、姉の入院中に父母が何をしているのかも、最後までわかりません。質問の仕方が悪く、意図の違う回答が返ってしまってきても、ミランダは内心「違うよ!」と思いながらそのまま流してしまいます。

そしてミランダ自身も、全てを話しているかどうかはわかりません。意図的に嘘をついているわけではないでしょうが。書き出しからすでに

やっぱり、自己紹介から始めるのはやめよう。名前とか、年齢とか、家族構成とか、何から何まで書くなんてつまらない。(P.8)

とひねくれています。言い換えて、読者の想像力で補ってくれと信頼してくれています。ちなみにこの書き出し、ミランダの性格をうまく表していて最高だと思いました。

ミランダはその想像力の豊かさもあって、素晴らしい世界を見ています。お気に入りのぬいぐるみはお話ししてくれ、的確なアドバイスもくれる。一番良い場面なので詳しくは書きませんが、ラストシーンだってもしかしたらミランダの想像にすぎないのかもしれません。ミランダの想いが詰まった世界です。

こう書くとミランダがまるで夢見がちな子みたいにみえるかもしれません。でもその実、結構な現実主義者です。というよりも冷静で客観的な目も持っていると言ったほうが正しいでしょう。奇跡なんてあるわけがないと思いつつ、どこかで信じたい気持ちがある。大人ほど割り切れないけど、何もかもを頭から信じられる子どもでもない。そんな成長途中なミランダに共感できる児童は多いんじゃないでしょうか。

そもそも、想像力の豊かさというのはあり得ない世界を想像するというだけではありません。ミランダはその想像力をフルに使って友人や家族の気持ちを汲み取ります。たとえ自分に都合の悪いことをされたとしても、それが相手の好意から出たものだと想像し、許してあげられる。ミランダの想像力は優しさに繋がっています。きっとそんな性格では損をするでしょう。でも、その想像力・優しさは得難いものです。ミランダにはこのまま優しく育っていってほしいなと、つい親目線で見てしまいました。

翻訳された本を読むこと

ここからは若干本の内容とは関係なくなってくるのですが、読んでいて感じたことなので自分用のメモ的に書いておきます。

文芸翻訳には訳者によって色んなスタンスがあると思います。例えば、句読点に至るまで原文に忠実であること。例えば、多少原文を変えてでも日本語として自然な流れにすること。私が大学で翻訳を学んでいた時は後者のスタンスだったので、前者であった教授とよくケンカしたものです。

そのどちらにしても、障壁になるのは原文語独特の表現が出てきてしまった時です。今作で例を出すと、登場人物に「ミス・ルーシー」という女性が登場します。ミランダのクラス担任の先生です。なぜ「ミス」をわざわざつけているのか?ルーシー先生ではダメなのか?前者のスタンスであった私はこの表現にどこかモヤモヤしながら読み進めていたのですが、その後、本文で「先生は結婚しているのにミセスじゃなくてミス・ルーシーと呼んでいいのか」といった表現が出てきて合点しました。未婚・既婚によってつける敬称が変わるというのは、英語にあって日本語にないものです。現代においてはその差別化に若干時代遅れ感を覚えなくもないですが。

ミス・ルーシーとすることで、ミランダの、敬称の違いに気がつく語学センス、細かい性格を訳文に活かすことができますし、何より、英語圏ではミスとミセスという敬称があって、未婚・既婚でそれが変わるのだ、と読者に教えることができます。その作品を通して外国の文化を学べるのもまた翻訳書の存在意義ですね。かといって大量の脚注や、話の内容理解を阻むほどの文化差違は、読む気力を失わせてしまうので難しいところです。

上で散々書いてきた通りミランダは言語センスに優れた子です。作中で英単語や韻について突っ込みを入れまくるわけです。翻訳者泣かせの主人公だったのではないかなと、訳された方の苦悩を勝手に思わずにいられませんでした。

著者・訳者について

シヴォーン・パーキンソン(著者)

児童文学者。大人向けのものもいくつか書かれています。何より、アイルランドの出版社「Little Island Books」の発行人・編集者とのこと。お世話になってます。

浜田かつこ(訳者)

児童書をメインに翻訳されている方のようです。恐竜が出てくるシリーズの本がめちゃおもしろそうでした。

THE LOVE LEABHAR GAEILGE IRISH LANGUAGE BOOK OF THE YEAR 2018ショートリスト

An Post Irish Book Awardsの1部門であるTHE LOVE LEABHAR GAEILGE IRISH LANGUAGE BOOK OF THE YEAR 2018。

今年創設されたジャンルです。対象はゲーリック(アイルランド語)で書かれた本。

An Post Irish Book Awardsについては↓

rokuyon64.hatenablog.com

受賞作品

Tuatha Dé Danann(ag Diarmuid Johnson)

www.leabharbreac.com

amazon.jpで取り扱いがないので出版社のリンクでも…と思ったらHTMLが丸見え。かつ品切れ。

題名から分かる通り、ケルト神話よりトゥアサ・デー・ダナンの話を現代アイルランド語で語りなおしたもの。「マグ・トゥレドの戦い」を扱ったものだそうです。

第1回目の受賞としてこれほどぴったりなものはないんじゃないでしょうか。

ノミネート作品

Fuascailt an Iriseora(ag Michelle Nic Pháidín)

www.coislife.ie

主人公Brídはジャーナリスト。首都に戻った彼女をトラブルが襲う。

シリーズ物2作目のようです。お仕事小説。

Lámh, Lámh Eile(ag Alan Titley)

www.cic.ie

探偵Shamusは、夫の手だけが入った箱を持った妻に、夫の行方を捜して欲しいと依頼される。次々と見つかる夫の体の一部。一体誰が何の目的で行っているのか?ハードボイルド・ミステリー。

表紙が昔のアメコミ風だったので明るい内容かなと想像していたら予想外の重めミステリーでした。

Luíse Ghabhánach Ní Dhufaigh: Ceannródaí(ag Celia de Fréine)

www.litriocht.com

アイルランド語復興運動に活躍したLuíse Ghabhánach Ní Dhufaigh(英語名:Louise Gavan Duffy)の伝記。

実はLuíse自身も若い頃はアイルランド語を話せなかったそうです。何とも、アイルランド語で書かれたこと自体に意義があるような作品ですね。

Táin Bó Cualaigne(ag Darach Ó Scolaí)

www.leabharbreac.com

ケルト神話より「クアルンゲの牛獲り」の翻訳。表紙がこわーい。今やすっかり有名になったであろう英雄クー・フーリンの物語です。アイルランドでも人気のあるお話だとか。

アイルランド語アイルランド語の翻訳に意味があるのか?と思われるかもしれませんが現代語訳「源氏物語」みたいなものです。

Teach an Gheafta(ag Cathal Ó Searcaigh)

www.leabharbreac.com

ある若い男がドニゴールのゲールタハトで過ごしたひと夏の物語。

非常にユーモアのある、詩的な小説と賞賛されていました。

 

以上、ノミネート作品です。神話の翻訳やリライト、伝記など伝統的なものと新しい物語がバランスよく選ばれている印象でした。正直に言って、アイルランド語は難なく読める人が少ない言語です。広く読んでもらうなら今の世界では英語で書くのが一番でしょう。その中で、アイルランド語で執筆する、という意義を作者それぞれがどう考えるのか。少し日本語に通じるものがある気がします。日本は国内需要が圧倒的なのでまた違うのかもしれませんが。

それと個人的には、地域によって表現や綴りが変わってくるアイルランド語でどうやって小説書くの?と思わなくもありませんでした。綴りはまあ、標準アイルランド語なのかしらんと考えつつ。ただこういう賞でアイルランド語の小説が取り上げられるのはいいですね。私のような学習者は「この本が読んでみたい」と学習意欲に繋がります。

難点は日本だと手に入りにくいことでしょうか。あと賞のサイトも、他の部門だと用意されている作品ごとの紹介ページがなく一行紹介のみでした。もう少し頑張ってくれてもよかったのではないか。

12月試し読みしたものまとめ

The Cruelty Men 

The Cruelty Men (English Edition)

The Cruelty Men (English Edition)

 

ジャンル:歴史

ページ:448

あらすじ:Mary(メアリー)はケリーからミースのゲールタハト(アイルランド語が日常的に話されている地域)に引っ越してきた。家族は困窮していた。親に代わり弟たちの面倒を見なければならなくなったMary。そこには苦難が多く待ち受けていた。1930年代から1960年代までを描いた話。

レビューではケルト神話を絡めた歴史フィクション、と書いてありました。Maryの話が始まる前も1653年のパートがあり、そこではクロムウェルによって侵攻され、森に逃れた人物の一人称がありました。それまでアイルランドに住んでいた人々が西に追いやられていく様子が生々しく描かれています。反面、森で暮らすその人は「地下の国」(=神々・妖精の暮らす国)を探しているなど、神話と歴史の融合のような物語になっていました。他、レビューでは詩的な表現を高く評価されていたのが印象的でした。

この1653年パートがとても好きです。章の終わりに、主人公はアイルランドの敗北を感じながらも(この時に「ハープは全て燃やされるだろう」という表現をするのも良い)“The stories were an unconquered place.”と断言します。これこそが小説の存在意義かもしれないと思うくらい、強い言葉でした。

The Blamed 

The Blamed (English Edition)

The Blamed (English Edition)

 

ジャンル:家族、ミステリー

ページ:352

あらすじ:今までで最高の夏だった。恋に落ち、自分自身をよく理解し、最も充実した夏だった。でも、それは間違いだった。15年後、Anna(アンナ)は反抗期の娘Jessie(ジェシー)に手を焼いていた。さらに娘から自分の名前の由来を尋ねられ、15年前の秘密が明らかになっていく。

主人公Annaには2人子どもがいます。長女Jessieと長男Rudi。話はJessieとAnnaの関係を中心に進んでいくようです。

Jessieの名前は死んだ友人と同じものをつけたとAnnaがさっさと明かします。その理由が、死んでもずっと一緒にいられるような気持ちになれるから、とありました。なかなかのサイコパスっぷりじゃないですか。でも欧米ではよく死んだおじいちゃんの名前をもらっている人を見ますし、この文化圏では普通のことなのかもしれません。

他、Annaは夫の名前が嫌いで"you"とか"him"としか呼ばなくなった、娘も主人公をママではなく名前で呼ぶなど、名前と呼び名が物語上のカギになりそうな描写具合でした。

The Month of Borrowed Dreams

The Month of Borrowed Dreams (English Edition)

The Month of Borrowed Dreams (English Edition)

 

ジャンル:人生、本、シリーズ物

ページ:368

アイルランド西海岸の街Finfarran半島を舞台にした群像劇。夏を前に、ブッククラブの面々はそれぞれ人生の難しい選択を迫られていく。

本編が始まる前に、「このFinfarranは作者の頭の中に存在する街だから観光に来ても見つからないよ」と注意書きしてあるのが面白かったです。裏を返せば、それだけリアリティのある描写なのでしょう。ちなみにFinfarranを舞台にしたシリーズ物です。

ブッククラブなだけに本の話題はもちろん、映画についての言及が多く、おしゃれでサクッと読める感じ。

DEPT 51@ EASON TEEN/YOUNG ADULT BOOK OF THE YEAR 2018ショートリスト

An Post Irish Book Awardsの1部門であるDEPT 51@ EASON TEEN/YOUNG ADULT BOOK OF THE YEAR 2018。

ヤングアダルトティーンズ向けの部門です。

An Post Irish Book Awardsについては↓

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受賞作品

THE WEIGHT OF A THOUSAND FEATHERS(by BRIAN CONAGHAN) 

The Weight of a Thousand Feathers (English Edition)

The Weight of a Thousand Feathers (English Edition)

 

Bobby(ボビー)は17歳ながら、病気でほぼ寝たきりの母を介護し、幼い弟の面倒を見る多忙な日々を送っていた。ある時、親の介護をしている少年少女たちの集まりPoztive(原文ママ)に行き、アメリカ風の英語を話すLou(ルー)に出会う。

まだ感想を書けていないのですが、12月に読みました。受賞も納得の面白さ。

介護やLGBTといった重めのテーマを扱いながら物語の面白さで牽引していく、非常に内容のまとまった作品でした。

ノミネート作品

DOCTOR WHO: TWELVE ANGELS WEEPING(by DAVE RUDDEN)

Doctor Who: Twelve Angels Weeping: Twelve stories of the villains from Doctor Who (English Edition)

Doctor Who: Twelve Angels Weeping: Twelve stories of the villains from Doctor Who (English Edition)

 

イギリスの人気ドラマシリーズ、ドクター・フーのスピンオフ小説。悪役側に焦点が当たっているようです。短編12本で、かつクリスマスに関連した話とのこと。

スピンオフモノもノミネートされるとは、ちょこちょこ言っていますが懐の広い賞ですね。

THE SURFACE BREAKS(by LOUISE O’NEILL) 

The Surface Breaks: a reimagining of The Little Mermaid (English Edition)

The Surface Breaks: a reimagining of The Little Mermaid (English Edition)

 

有名な童話「人魚姫」を基にしてフェミニズムの視点から語りなおした物語。人魚姫Gaia(ガイア)は人間になることを夢見ていたが、それには代償が必要で……という筋は全く元ネタと同じです。

以前試し読みの感想を書きました↓

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THE WREN HUNT(by MARY WATSON) 

The Wren Hunt (English Edition)

The Wren Hunt (English Edition)

 

ドルイドには2種類いる。特別な能力を持つaugurと自然と調和するjudge。敵対関係にある2部族は太古から勢力争いを繰り返していた。主人公Wren(レン)は未来視ができるaugurであり、一族のためにjudgeの巣窟へスパイとして潜り込むことになる。

以前読んで感想を書きました↓

rokuyon64.hatenablog.com

アイルランドの神話とうまく融合した質の高いファンタジーという印象でした。

SPARE AND FOUND PARTS(by SARAH MARIA GRIFFIN) 

Spare and Found Parts (English Edition)

Spare and Found Parts (English Edition)

 

伝染病により体の一部を失った人々に、Nell(ネル)の父はバイオテクノロジーを利用した手足を作ってあげていた。しかしNellの心臓は機械製だ。ある日Nellは砂浜でマネキンの腕を見つける。

ディストピアものですね。YAでこのテーマを持ってくるのか、と思うことが2018年は多かったような気がします。

DARK WOOD DARK WATER(by TINA CALLAGHAN) 

Dark Wood Dark Water (English Edition)

Dark Wood Dark Water (English Edition)

 

Josh(ジョシュ)の兄(か弟)が溺死した。同様に家族を亡くした人たちと共に町の歴史家Naylor(ネイラー)に助けを求める。同時にJoshに不思議な出来事が起こりはじめる。

ホラーっぽいです。溺死とか水とかはやっぱり怖いですよね。水というと何かと死者と結びつけられますし。

 

以上、ノミネート作品でした。社会派の作品が多いでしょうか。私がYAの対象年齢だった時はもっとエンタメ寄りのものが多かった気がする。時代は変わるんですね。青少年のうちからこんな重厚なテーマを読んでいたらどんな大人になるのでしょう。

NATIONAL BOOK TOKENS CHILDRENS BOOK OF THE YEAR (SENIOR) 2018

An Post Irish Book Awardsの1部門であるNATIONAL BOOK TOKENS CHILDRENS BOOK OF THE YEAR (SENIOR) 2018。

児童書の高年齢層向けのものが選ばれます。YAと絵本の中間あたりでしょうか。

An Post Irish Book Awardsについては↓

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受賞作品

BLAZING A TRAIL: IRISH WOMEN WHO CHANGED THE WORLD(by SARAH WEBB & LAUREN O’NEILL) 

Blazing a Trail: Irish Women Who Changed the World

Blazing a Trail: Irish Women Who Changed the World

 

女性パイロット・レディヒース、看護師ネリー・キャッシュマン。女海賊グレース・オマリーに、ダンサーのニネット・ド・ヴァロア……。アイルランドには世界を変えてきた女性がたくさんいる。彼女たちの活躍をイラスト付きで描いた本。

Irish Published Bookでもノミネートされていた作品。アイルランドは世界に羽ばたいた人たちが大勢いるので、その分、世界に影響を与えた女性も多そうです。

フェミニズム運動が何かと話題になった2018年に、この本が受賞したのも納得です。

ショートリスト作品

TIN(by PÁDRAIG KENNY) 

Tin (English Edition)

Tin (English Edition)

 

Christopher(クリストファー)は「ちゃんとした」人間だった。本物の肉体に本物の魂を宿した人間だ。Christopherはエンジニアであり、大親友のロボットを作っていたのだが、ある日事件が起きてしまう。

ジャンルとしてスチームパンクに分類されていたのが衝撃でした。スチームパンク小説って格好良くないですか。

THE TROUBLE WITH PERFECT(by HELENA DUGGAN) 

The Trouble with Perfect (A Place Called Perfect Book 2) (English Edition)

The Trouble with Perfect (A Place Called Perfect Book 2) (English Edition)

 

パーフェクト町シリーズ2作目。前作でArcher(アーチャー)双子から解放されたViolet(バイオレット)と町民は、手に入れた自由を謳歌していた。しかしゾンビが現れ、町はまた大変なことになる。

ティム・バートンのファンにおすすめ、と記載されていました。表紙もそんな感じですね。

THE SECRET SCIENCE: THE AMAZING WORLD BEYOND YOUR EYES(by DARA Ó BRIAIN) 

Secret Science: The Amazing World Beyond Your Eyes (English Edition)

Secret Science: The Amazing World Beyond Your Eyes (English Edition)

 

世の中は科学にあふれている。目に入るものから、日々自分が使っているものまで、著者Daraが詳しく解説する。

児童書でノンフィクションがノミネートされるのは新鮮な気がします。

THE STORM KEEPER’S ISLAND(by CATHERINE DOYLE) 

The Storm Keeper’s Island (English Edition)

The Storm Keeper’s Island (English Edition)

 

Fionn Boyle(フィン・ボイル)の祖父はアランモア島でStorm Keeperをしていた。その魔法の力を外敵から守る仕事だ。しかし退任の時期が迫り、島は新たなStorm Keeperを求めていた。アランモア島にやって来たFionnの周りで騒動が起き始める。

あらすじを書くために他の人のレビューやら何やらを読んでいたらものすごく面白そうでした。読んでみたい。元々著者の祖父がアランモア島に住んでいたことから今作を書こうと思い立ったとのことでした。

THE DOG WHO LOST HIS BARK(by EOIN COLFER & P.J. LYNCH)

Patrick(パトリック)はずっと犬を飼いたいと思っていた。父親を亡くした今年はことさら。一方、犬のOz(オズ)はひどい扱いを受け、吠え方を忘れてしまっていた。傷ついた1人と1匹は心を通わせていく。

アマゾンに画像が無いのはなんでだ。表紙は青い色に少年と小さい犬が見つめ合っているものです。ともかく、絶対感動系です。「ずーっとずっとだいすきだよ」に似た雰囲気を感じました。

 

以上、ノミネート作品でした。フェミニズムやAIとの交流を扱った社会派から科学系、ファンタジーなどこれまた幅広く選ばれている印象です。

NATIONAL BOOK TOKENS CHILDRENS BOOK OF THE YEAR (JUNIOR) 2018ショートリスト

An Post Irish Book Awardsの1部門であるNATIONAL BOOK TOKENS CHILDRENS BOOK OF THE YEAR (JUNIOR) 2018。

児童書の中でも低年齢層向けのものが選ばれます。要するに絵本。

An Post Irish Book Awardsについては↓

rokuyon64.hatenablog.com

受賞作品

THE PRESIDENT’S CAT(by PETER DONNELLY) 

The President's Cat

The President's Cat

 

大統領が休暇から戻ると、官邸から愛しの猫が消えていた!アイルランド中の人々が猫探しを手伝うことになる。

イラストがかわいい。さてアイルランドは大統領・首相を置いています。大統領は象徴というか、儀式的な職務が多いですね。公用語アイルランド語のため、大統領官邸もアイルランド語でÁras an Uachtaráinと表する決まりです。

現在の大統領はこの前再選したマイケル・D・ヒギンズ氏です。心なしか絵本の大統領と似ている気がしなくもない?

ショートリスト作品

THE FIRST CHRISTMAS JUMPER: AND THE SHEEP WHO CHANGED EVERYTHING(by RYAN TUBRIDY & CHRIS JUDGE) 

The First Christmas Jumper and the Sheep Who Changed Everything (English Edition)

The First Christmas Jumper and the Sheep Who Changed Everything (English Edition)

 

Hillary(ヒラリー)は変わった羊だった。体が虹色の毛でおおわれているし、何よりクリスマスとサンタさんが大好きなのだ。ある日サンタさんが新しい羊毛の上着を探していると聞き、Hillaryは一計を案じる。

何かよくわからんがかわいい。PVもありました。

www.youtube.com

THE MAGIC MOMENT(by NIALL BRESLIN & SHEENA DEMPSEY) 

The Magic Moment

The Magic Moment

 

Freddie(フレディ)は初めてのスイミングスクールにわくわくしていた。けれど実際に行ってみたプールは怖くてたまらない。その夜、Nana(ナナ)はFreddieにこっそり秘密の魔法を教えてくれた。

どうやって恐怖を乗り越えるかを教えてくれる絵本ですね。表紙のFreddie、よく見ると恐竜のゴーグルしてるんですよ。欲しい!

HERE WE ARE(by OLIVER JEFFERS) 

Here We Are: Notes for Living on Planet Earth

Here We Are: Notes for Living on Planet Earth

 

この世に生まれた君へ。この世界、地球のことを説明しよう。

これもトレーラー映像がありました。海外の本はこういうの多くあって楽しいです。

www.youtube.com

作者が息子にこの世界を説明するのに苦心した経験から生まれた絵本だそうです。この人のイラスト、とても好きです。

THE POOKA PARTY(by SHONA SHIRLEY MACDONALD) 

The Pooka Party

The Pooka Party

 

Pooka(プーカ?)は高い山に住む不思議な生き物。歌って暮らすことに満足していたが、ある日、少しの寂しさを覚えた。そこでPookaはパーティを開こうと思いつく。

Twitterで言及されていることが多かった印象です。絵だけ見れば「かいじゅうたちのいるところ」に似ているなと思ったのですが、改めて見たらそうでもなかった。

I SAY OOH, YOU SAY AAH(by JOHN KANE) 

I say Ooh You say Aah

I say Ooh You say Aah

 

ロバのパンツがなくなってしまった。一緒に探してあげよう!

えっ頭……。いや、言わぬが花というものです。これは朗読して楽しむ系の絵本です。こだまでしょうか。

 

以上、ショートリスト作品です。しっとりした内容や教訓的なものから、単純に読んでいて楽しめそうな派手な色使い、内容まで幅広くノミネートされています。

レビュー:Travelling in a Strange Land

本情報

Travelling in a Strange Land (English Edition)

Travelling in a Strange Land (English Edition)

 

ジャンル:家族、心理

ページ:176 全2章

あらすじ

大吹雪に見舞われたアイルランド島グレートブリテン島。飛行機も飛ばない中、Tom(トム)は大学の寮で寝込んでいる息子Luke(ルーク)を迎えに行くことになる。車に乗り、フェリーで島を渡り、また車に乗る。独りきりで道を進む内に、Tomは昔のことを思い返していた。

登場人物

Tom(トム)

主人公。中年の男性。妻と息子と娘を心より愛している。

大学の寮で体調を崩した息子を迎えに行くため、大吹雪の中ベルファストサンダーランドのドライブに出る。

ユーモアのセンスがある人物です。音楽好きで過酷なドライブへ行くのにお気に入りのCDを真っ先に用意していました。また、旅先でも様々な人と積極的にコミュニケーションを取るなど人好きのする性格です。そんなTomを悩ませるのが唯一、隠された過去にありました。

Luke(ルーク)

Tomの2番目の息子。サンダーランドの大学に通っている。寡黙なタイプ。

主人公の主観では、昔から何事も長く続かない、無口な子だそうです。登場シーンではあまりそんな風に感じませんでした。普通の好青年です。

Lorna(ローナ)

Tomの妻。家族を心より愛している。少し心配性すぎるところがある。

TomにLukeを迎えに行くようお願いした人物でもあります。物語の起点ですね。とってもかわいらしい性格でした。Tomが羨ましい。

Lukeを心配するあまり電話をかけまくるなど行き過ぎるところもありますが、これは多分、1人目の息子のことがあったからなんでしょう。

Lilly(リリー)

Tomの娘。Lukeとは歳が離れている。

すっっっごくかわいいです。作中での癒しです。言葉を覚えている途中だからか、ダジャレのような謎々を出してきます。かわいい。

Daniel(ダニエル)

Tomの1番目の息子。ドライブ中もDanielの幻影を見るほどTomの心を占めている人物。

こうして登場人物欄に書くのがネタバレにならないか心配なのですが、他サイトのレビューでも言及していたので大丈夫でしょう。というより、前情報なしで読み進めると「急に出て来たDanielって誰???」状態になります。なりました。そこまで徹底的にDanielの情報は伏せられているので、Tomの子どもはLukeとLillyだけという先入観を持ってしまうんですよね。

物語補足

主人公の旅路

北アイルランドベルファストが出発地(自宅)、サンダーランドが目的地(息子の大学寮)です。車とフェリーで実に6時間少々。物語はこの道程を追っていくことになります。

インターネットの発達により、日本にいながらこういう小説に出てくる舞台、道のりも簡単に調べられるようになりました。君たちは良い時代に生まれたことを感謝しなさいよ、とよく大学の先生方に言われたことを思い出します。サンキューグーグル。

それはともかく、グーグルマップで主人公と一緒に旅する気分になるのもおもしろそうです。

主人公の車について

物語を通して登場するのが主人公Tomと、その相棒の車です。車種はトヨタRAV4。ゴツくて雪道も乗り越えてくれそうな頼もしい感じ。

さらに車に搭載されているsatnav(カーナビ)がちょこちょこTomの旅路に口を挟んできます。これが物語上で旅路だけでなくTomの人生とその秘密に関して鋭い指摘をする演出がなされていました。徐々に愛嬌すら感じてきます。

雪について

アイルランドはほぼ雪が降らないそうです。北アイルランドはまだ少し降りやすいとのことですが、それでも雪国ではないレベル。なので今作の状況設定はアイルランド・英国の読者からしても異常です。雪に囲まれてひたすら車を走らせる状況は、若干の異界感が漂っていました。正にStrange Land。

ただ、去年の冬は珍しく大雪が降ったそうです。小説と現実が重なった稀有な例ですね。

感想

全てが終わった後の話

小説を読みだしてから読み終えるまで、一貫して「何も起こらない小説だな」という感想が1番にありました。語弊のないよう言うと、つまらない小説だということではありませんし、何も起らないわけではないのです。ゲームオブスローンズを作っているという人に出会ったり、事故を起こしてしまって困っている人を助けたりしています。でもそれだけです。主人公がとらわれているのは過去であり、今現在起きていることは全て過去の苦悩を呼び覚ますものでしかありません。

そのせいか、主人公に置いていかれている感覚は読んでいる間中、少しだけありました。こっちは主人公の苦悩の解決に立ち会いたい、寄り添いたいと思っているのに勝手に独りで進んでいかれる。そこはかとない無力感がありました。でも、小説ってそもそもそういうものです。自分は何の為に小説を読むのか、何を求めているのか立ち返ってしまいました。そんな力のある小説です。

この小説の雰囲気といい、中年のおっさんが苦悩する流れといい“Solar Bones”に似ているなあと思っていたら、The Guardianのレビューでも同様に指摘されていました。“Solar Bones”がハッピーエンドとは言い難かったため、これも同じになるんじゃないかとハラハラしましたが、終わり方は中々に好きでした。

Travelling in a Strange Land by David Park review – daring and deeply felt | Books | The Guardian

Strange Land

本のタイトルになっている‟Travelling in a Strange Land”は、写真家ビル・ブラントの言葉から取られています。以下引用。

The photographer must have and keep in him something of the receptiveness of the child who looks at the world for the first time or of the traveller who enters a strange country. 

実際の言葉とは若干変えてあるようです。この言葉は小説の最後の最後まで効果をもたらします。始まりと終わりがこうして繋がっているの、とても良い…。このまとめ力はさすがベテラン作家と言えばいいのでしょうか。

常にStrange Landにいるというのは、反面、常に孤独を抱えて生きなければならないということです。Tomは愛する妻、息子、娘がいながら、過去の秘密を抱え孤独の中にいます。それが雪の車内でより鮮明になり、Tomは家路を見失いそうになるのですよね。

ところでTomも写真を生業としています。中でも写真の捉え方についての言及が印象的でした。

They think they always freeze the moment in time but the truth is that they set the moment free from it and what the camera has caught steps forever outside its onward roll.

写真は時を閉じ込めるものではなく、時から解放されて永遠性を獲得するものと。

こんな風にTomの思考は主に家族の思い出を媒介として様々に巡ります。そのひとつひとつが深いものだったり、俗っぽいものだったり。だからなのか、この小説って一言で表すのが難しいように思います。Tomのこういう物の見方はStrange Landへ紛れ込んだ旅人のような気分を味わわせてくれました。

音楽と写真

Tom一家の共通点として、全員が音楽好きというものがあります。登場人物欄でも書いたようにTomはドライブのお供にCDを持って行き、道中あれこれ鳴らして進んでいきます。

そのいくつかをspotifyでリスト化してくれているようです。リンクは著者あとがきにあったので、購入した人だけの特典というわけです。また、小説にインスパイアされて撮ったという写真のリンクもありました。今は小説を五感で楽しむ時代なんですね。

著者について

David Park

1953年、ベルファスト生まれ。

これまで11冊出版されています。特に“The Big Snow”は今作のひな型になったのではないかとの考察がIrish Timesのレビューでされていました。