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アイルランドの本(小説・児童書・YA)を紹介するブログです。

EASON BOOK CLUB NOVEL OF THE YEAR 2018ショートリスト

An Post Irish Book Awardsの1部門である、EASON BOOK CLUB Novel of the Year。

アイルランドの大手書店(兼雑貨店のような)であるEASONのサイトで、毎月オススメ本をジャンル問わず紹介しているEASON BOOK CLUB。この部門ではおそらくその中からさらに選りすぐった本をノミネートしているのではないかと思います。

その為か、他の部門に比べて一般的…というと言葉が悪いですが、今年を代表する人気作がノミネートされている印象です。

*An Post Irish Book Awardsについては↓

rokuyon64.hatenablog.com

ショートリスト作品

MILKMAN(by ANNA BURNS) 
Milkman (English Edition)

Milkman (English Edition)

 

もはや有名作品、今年のブッカー賞受賞作です。

架空の街、どこかの時代、みんなの興味の的となるのは危険だった。主人公Middle sister(次女)は平穏な暮らしを望み、彼氏(仮)の事もMilkmanと会っている事も母親に知られないよう注意していた。しかし噂が広まり、Middle sisterは周囲の興味の的となってしまう……というのが話の筋です。

この作品については私の拙文より遥かに素晴らしいレビューを書いている方がいらっしゃるので特に何も言う事はありません。その記事読んで。

著者はベルファスト出身、これまで2冊出版されています。

FROM A LOW AND QUIET SEA(by DONAL RYAN) 
From a Low and Quiet Sea: A Novel

From a Low and Quiet Sea: A Novel

 

 3人の主人公を据えた連作短編。1人はシリアの戦火から逃れ、1人は女性に恋焦がれ、1人は人生の終わりを前に告解するのが大まかな筋になっています。全く関係のない3人が不思議と1つに繋がっていくという、連作短編の器でありながら大枠は長編です。

こちらについては以前レビューを書きました。

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 著者はティペラリー出身。出す本出す本何かしらの賞にノミネートされている勢いです。また大学で教鞭もとっている様子。

A LADDER TO THE SKY(by JOHN BOYNE) 
A Ladder to the Sky

A Ladder to the Sky

 

Maurice Swift(モーリス・スウィフト)は才能以外なんでも持っている男だった。作家を志していたMauriceは西ベルリンのホテルで有名作家に出会う。作家の経験を小説のネタにして一躍有名になったMaurice。しかしその成功は転落の始まりでもあった。

この作品はAn Post Irish Book Awardsの他部門でもノミネートされています。A Ladder to the Skyを成功して有名になっているMauriceの状況を表す語として使っていると思うのですが、そこから落ちた時の酷さを想起させるに階段は良いたとえですよね。

著者はダブリン出身、彼自身が有名作家ですね。『縞模様のパジャマの少年』は映画化、邦訳されてます。『ヒトラーと暮らした少年』も今年邦訳されてました。

NORMAL PEOPLE(by SALLY ROONEY) 
Normal People (English Edition)

Normal People (English Edition)

 

Marianne(マリアンヌ)とConnell(コネル)は親の関係から頻繁に言葉を交わす関係だった。ただそれも高校までのこと。大学へ入り、2人の関係は疎遠になってしまう。くっついたり離れたりしながら、2人は互いの影響で人生を変えていくことになる。

こちらは前にレビューを書きました。

rokuyon64.hatenablog.com

この本、今年読んだ中でトップレベルにおもしろかったです。

著者はメイヨー出身、ダブリン在住。Normal Peopleが2冊目の出版作品です。

TRAVELLING IN A STRANGE LAND(by DAVID PARK) 
Travelling in a Strange Land (English Edition)

Travelling in a Strange Land (English Edition)

 

 ひどい吹雪に見舞われたアイルランド島グレートブリテン島。さらに主人公Tom(トム)の息子が病に臥せってしまう。大学の寮で暮らす息子を迎えに、Tomは1人ベルファストからサンダーランドへ車を走らせる。雪道を進む中、Tomは昔の記憶を思い返してしまう。

試し読みだけの感想ならこちらに↓

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今まさにこの本は読書中です。雪の表現がすごいのと、回想に入る流れがスムーズでぐんぐん読めます。

著者は9冊の本を出版している、北アイルランドを代表する作家です。

FUTURE POPES OF IRELAND(by DARRAGH MARTIN) 
Future Popes of Ireland (English Edition)

Future Popes of Ireland (English Edition)

 

 Bridget Doyle(ブリジット・ドイル)の夢は一族からアイルランド初の教皇を輩出することだった。そんな中、義理の娘が出産後に亡くなり、孫4人はBridgetの手にゆだねられた。それから30年。孫は全員教皇になれそうにも、なるつもりもなさそうだ。特に長女Peg(ペグ)は思春期に家出して以来、家で話題にあげることすらタブーになっていた。

今年、アイルランド教皇が訪問された時、あちこちでお祭り騒ぎだったのを覚えています。それほどアイルランドにおける教皇人気は高いのですね。

そしてそれを家族の問題と結びつけて小説を書いてしまう、というのもすごいことです。あらすじを読むに、孫4人(内3人は3つ子)は同性愛者であったり、環境保全に夢中であったりします。昔から信仰されてきたキリスト教教皇)と、最近特に取り上げられるようになった同性愛や環境保全の対比が興味深いですね。

著者はダブリン出身、ロンドン在住。LGBTQ+の権利保護活動もされているようです。なるほど。他、児童書も書かれています。

 

以上6作がノミネートされています。あらすじを見ても共通点はあまりなく、これまたアイルランド文学界の多様性が見てとれますね。あえて言うなら家族、そして過去の話が多いでしょうか。それぞれ大なり小なりアイルランド島だけで終わらないストーリーなのも。