WRITING.IE SHORT STORY OF THE YEAR 2018ショートリスト
An Post Irish Book Awardsの1部門である、Writing.ie Short Story of The Year。
短編小説の部門です。ここではショートリスト作品と作者の紹介をします。
この部門はネット上でノミネート作品全てを読むことができるのが最大の特徴でしょうか。
Writing.ie Short Story of the Year 2018: The Final 6 – Vote Now! | Writing.ie
↑ここで読めます。
掲載元のWriting.ieは読者向けに作者インタビューやブックレビューを、作者向けに文学賞や出版ハウツーなどを載せているウェブマガジン。1週間ごとのベストセラーを載せてくれているのも嬉しいです。
ショートリスト作品
Gooseen(by Nuala O’Connor)
ジェイムズ・ジョイスと妻ノラの史実に基づいた物語。
生きづらい2人が解放されるまで、要はジョイスとノラがヨーロッパ大陸へ駆け落ちするまでの話です。最初、ジョイスはJimとしか表されないので一見わかりませんでした。Jimは文章を書くのが上手、という一文で「おいおいジェイムズ・ジョイスかよ」と思っていたらジェイムズ・ジョイスだったという。それともアイルランドの人はすぐにピンとくるのかしらん。
"There is nothing more natural to the Irish than the leaving of Ireland"というJimの一言がとても印象的でした。
題名Gooseenはノラの愛称。幼い頃おばあちゃんと会話しているシーンが何ともノスタルジックかつロマンチックでした。
著者はゴールウェイ在住。ノラの出身地です。短編集をこれまでに4冊出版し、9月に5冊目が出たばかりです。昨年もこの賞にショートリスト入りしている唯一の著者です。
How To Build A Space Rocket(by Roisín O’Donnell)
インドからの移民である主人公(少女)と家族の物語。
子ども目線、かつ2人称で書かれているので物語の詳しい部分は明かされないまま始まって終わります。お母さんの謎のメールとか、もろもろとか。Youtubeやテイトー(アイルランドで人気のポテチ)が出てくるなど、かなりローカルで現代的なお話設定になっています。
How to~の題名が付いているからか、話は「必要なもの」から始まってStep1、2、3…と続いていきます。こういう独特な語り方はけっこう好き。
雰囲気はケン・リュウに近いものを感じました。
著者は2016年に短編集“Wild Quiet”を出版。短編小説を中心に執筆しており、数々のアンソロジーに寄稿しています。
Pollyfilla(by Mia Gallagher)
知人のパーティで不思議な女性と出会った男の物語。
他の候補作に比べて会話劇の印象が強いでしょうか。こういう不思議な雰囲気の話、何かに似ているなと思ったのですが思い出せません。後半にかけての展開を考えるとネタバレが怖くて何も言えない。ジャンルはホラーになるのか?
著者はダブリン出身。小説の外、脚本や俳優の仕事もしているようです。短編集はこれまでに1冊出版。
Prime(by Caoilinn Hughes)
生徒と先生の物語。
世界観が独特です。私の英語力のなさが問題かもしれません。先生のキャラクターがとても強烈で印象に残りますね。クラスメイトも複数出てきます。短編でこれだけ大人数を難なく動かしてみせるのは著者の腕でしょう。話の終わり方はあれで正解なのか、文字が脱落しているのか判断つかないのがもどかしいです。
著者は今年デビューしたばかり。処女作がthe Butler Literary Awardのショートリスト入りを果たしているなど、前途有望感がすごい。
The Mother(by Deirdre Sullivan)
ある夫婦の物語。犬を飼うかどうか、どういう犬を飼うか、の会話が中心で進行していきます。なぜ犬なのか…はネタバレになりそうで言えない。
叙述トリックになるのでしょうか。それとも私が鈍感だっただけでしょうか。ところどころ出てくる地の文のYouに引っ掛かりを覚えながら読み進めていくと、最後の最後で種明かしされました。こういうことされると好きになっちゃう。
著者はゴールウェイ出身、執筆活動と共に教師もやっているそうです。
The Woman Who Was Swallowed Up by the Floor and Who Met Lots of Other Women Down There Too(by Cecelia Ahern)
プレゼンで失敗した女性が恥ずかしさのあまり穴に入る物語。
題名がライトノベルか?というくらい長いです。日本語でタイトルをつけるなら間違いなく「穴があったら入りたい」なんですけどね。
コメディ色が強く、読んでいてつい笑ってしまいました。発想の勝利。
著者はダブリン在住。ベストセラー作家であり、今回の候補作もなるほど、ベテランならではの語り口でした。
以上6作が候補作です。どれでもそれぞれの世界観や作風があり、アイルランド文学界の多様性が垣間見えます。
今年はノミネートされた著者が全員女性なのも特徴でしょうか。さらに踏み込んで候補作も母親を題材にしたもの、女性教師を題材にしたもの、女性ばかり出てくるものなど女性が物語を牽引している作品が多い印象です。それぞれの候補作における女性像を見比べてみるのも楽しいかもしれない。