紹介:Beyond the Breakwater
本情報
Beyond the Breakwater: Memories of Home
- 作者: Catherine Foley
- 出版社/メーカー: Mercier
- 発売日: 2018/04/06
- メディア: Kindle版
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ジャンル:自叙伝
ページ:288
あらすじ
幼い頃のゲールタハトへの旅。コーク、ティペラリー、ダブリンへの旅行や暮らし。そしてそこに住む人々との交流。アイルランドの自然風景を愛する作者による自叙伝。
試し読みしての感想
シャングリラ、もしくはティルナノーグ
作者は子どもの頃に、ウォーターフォードのRingへ家族で引っ越すことになります。Ringはアイルランドの中でもアイルランド語が日常的に使用される地域(ゲールタハト)であり、地名もアイルランド語An Rinnの方が正式名称となっています。さらにAn Rinnは「先端」の意味から来ているそうです。地図を見ると分かりやすいのですが、にょきっと突き出してるんですよね。作者も本文ではthe Ring Peninsulaと表現していました。
引っ越した経緯として、父親が子どもの時、毎夏休暇でこの土地に来ていて気に入っていたこと。仕事のストレスが酷く、休養の必要があったことと記されていました。なんとも現代的な理由です。
そんな父親にとって、An Rinnはまさにシャングリラ、ティルナノーグ(常若の国)、楽園でした。きっと幼い頃の思い出補正もあったのでしょう。そこは作者たちが前に住んでいたところとはくらべものにならないほど田舎です。時代錯誤と言ってもいいほどに。しかし、作者自身もAn Rinnに魅了されていくことになります。そんな体験が自然を愛する心を育んだのかもしれません。
アイルランド語
アイルランド語はアイルランドの公用語ですが、上に書いた通り、「日常的にアイルランド語が話されている地域」の名称があるくらい話者が少なくなっています。一応義務教育で国民はアイルランド語を学んでいるそうなのですが、やはり英語を先に身につけてしまうのでどうやっても「後から学ぶ第2言語」的な扱いになってしまうんだとか。
時代の流れによって消えたらそれまで、という考え方もあるとは思います。しかし詩的な響きを持つと言われるアイルランド語と、アイルランドが詩人を多く輩出したことは無関係でないでしょう。前にどこかでその関連性を論じた文章を読んだ気がするのですがどうしても思い出せません…。
私は残念ながらまだアイルランド語で詩を読むことはできませんが、それでもアイルランド語の響きが好きなので消えて欲しくないと切に願います。
なにより、日本語も同じ状況になりかねない立場ではないのかとたまに考えます。言葉に芸術的価値を見てしまった者としては何としても守っていきたい。
さわやかな文体
作者も昔を懐かしみながら、愛おしみながら書いているのがすごく伝わってきました。草原のような文章。いいですよね、なんだかよくわからないノスタルジーに襲われました。
作者について
Catherine Foley
ジャーナリストを経て専業作家になる。アイルランド語で作品を書いてもいるようです。