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アイルランドの本(小説・児童書・YA)を紹介するブログです。

紹介:The Good Friday Agreement

本情報

The Good Friday Agreement (English Edition)

The Good Friday Agreement (English Edition)

 

ジャンル:歴史、ノンフィクション

ページ:320

あらすじ

1998年4月、The Good Friday Agreement(ベルファスト合意)が締結され、アイルランドを巡る闘争は終わりへ一歩踏み出した。今日、北アイルランドは平和を享受しているように見える。

締結から20年、The Good Friday Agreementの功罪とは何だったのか。Brexitを迎えるこれからの北アイルランドはどこへ向かうのか。ジャーナリストである著者が北アイルランドの20年間とこれからを論じた。

試し読みしての感想

The Good Friday Agreement(ベルファスト合意)とは

日本語訳だとあっさりしていますね。ベルファストで結ばれたのでベルファスト合意、英語名は聖金曜日に結ばれたのでThe Good Friday Agreementと呼称しています。

英国政府とアイルランド共和国の間で結ばれた和平合意で、あらすじにも書いた通り、それまでカトリック系とプロテスタント系で衝突してきた歴史に終わりをもたらすものになりました。ざっくり言えば英国もアイルランド共和国北アイルランドの帰属についてはどうこう言わないし、いずれ住民の判断で決めていいよ、あと英国籍とアイルランド国籍好きな方選んでね(両方でもいいよ)とした合意です。また、これにより北アイルランド自治政府が置かれることとなりました。かなり頻繁に議会停止していますが。

国連のサイトで合意文は公開されています。興味があればここ(Northern Ireland Peace Agreement (The Good Friday Agreement) | UN Peacemaker)からどうぞ。

さて、この合意が今になってなぜ解説本を出版されるまでに至っているのかと言えば、もちろん20周年ということもあるのでしょうが、Brexitの存在が大きいでしょう。実際にこの本でも最初の方でBrexitについて触れられていました。

北アイルランドは英国連邦に所属しています。一方で、アイルランド共和国は英国連邦を脱退し、EU加盟国となっています。つまり、Brexitにより英国連邦がEUを脱退してしまうとEU加盟国間で認められている恩恵が英国⇔アイルランド共和国間で成り立たなくなってしまいます。でもそうするとベルファスト合意はどうなっちゃうの?というのが色々と議論されているところです。一応、国境は開かれたままにするそうですが、税などまだ問題は残っています。

ここで著者はベルファスト合意とそれからの20年を振り返り成果を確認するとともに、これからのアイルランド共和国北アイルランドの行く方向を考察したのではないか、と思います。本文中では「英国の人たちはBrexitが決まってから『そういえば自分たちの国はEU加盟国と国境を接しているんだった』と気がついた」「所詮英国の多数にとって北アイルランドは端っこで気にも止めてもらえてなかったんだ」と多少皮肉めいた言葉も記していますが。

事前知識なしでも読める

文章はかなり平易な印象を受けます。また、アイルランド島の歴史に詳しくなくても、かなりがっつり解説してくれているのでこれ単体で充分かと思います。この背景はこんなのと同じ感じ、とかみ砕いて説明してくれていました。

作者の実体験に基づいて話が進んでいく形は導入部分として入っていきやすかったです。父母がカトリック系とプロテスタント系だったため「mixed marriages」と呼ばれたり、またそのせいで幼い頃は北アイルランドから逃れて暮らしていかなければならなかったり。歴史の教科書で学ぶ時とは違った印象を受けました。

著者について

Siobhan Fenton

ベルファストを中心に活躍するジャーナリスト、ライター。BBCで働いていており、ジェンダーや政治関係を担当しているそうです。

今作が著作としてはデビュー作。