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レビュー:Begone the Raggedy Witches

本情報・あらすじ

Begone the Raggedy Witches (The Wild Magic Trilogy, Book One)

Begone the Raggedy Witches (The Wild Magic Trilogy, Book One)

 

 ジャンル:ファンタジー、YA

あらすじ:Mup(マップ)が魔女を見た夜、大好きなおばちゃんが死んだ。魔法界の女王の娘であるマップの母親をさらいにきた魔女を、幽霊のおばちゃんと一緒に撃退したのもつかの間、今度は父親が魔法界へ連れさられてしまった。母、弟、飼い犬、幽霊のおばちゃんと一緒に魔法界へ飛び込んだマップの冒険譚。

登場人物

Mup(マップ)

主人公。浅黒い肌と黒い髪の少女。父方がナイジェリア出身であり、その血を強く継いでいる。母は魔法界の女王の娘。マップ自身も多少の魔法が使える。

彼女は本当に良い子です。惻隠の情がありますね。一時的に腹を立てた相手であっても、一方の事情を汲み取ることができる。守ると決めた相手のためならどんなに自分が傷ついても守り通す。まさにヒーローでした。これほど好感の持てる主人公も久しぶりです。

Stella(ステラ)

マップの母。魔法界(正式にはGlittering Land/輝きの世界)の女王の娘。幼い頃、女王の元にいたら危険だと判断したおばちゃんの手引きで人間界へ逃げ出してきた。何も得意なことがない、と自分では思っていたが魔法界に来て本当の自分の力を知る。

半分主人公、のような。

Tipper(ティッパー)

マップの弟。まだベビーシートを使っている赤ちゃんだが、魔法界ではなぜか犬になる。よく英語を間違える。

無邪気でかわいいですが、核心をつくような発言もあり、マップの旅の心強いパートナーになります。

Crow(クロウ)

カラスの少年。魔法界出身。母は行方不明、父は女王に攫われてしまった孤児。

寂しさ故に性格がひねくれている。同い年くらいのマップには共感と嫉妬が混ざった複雑な感情を抱いています。

舞台と補足

舞台はアイルランド、魔法界の2つです。ほぼ魔法界メイン。便宜上魔法界と呼んではいますが、正式にはGlittering Landと呼ばれていました。印象としては『不思議の国のアリス』の不思議の国、『オズの魔法使い』のオズ王国とその周辺に似ています。

魔法界は女王が支配しています。マップの血縁上の祖母にあたります。かなり独裁的な政治をして、タイトルにもなっているRaggedy Witchesは女王の配下となった人たちのこと。彼らは家族を切り捨て、ただ女王のためだけに献身的に仕えることを誓わされています。代わりに強力な魔法が使える。

ここには魔法が存在し、魔法が使えるマップやママによると「この世界は(現実と違って)色鮮やかに見える」だそうです。街が存在し、それぞれ女王の法に従って暮らしていますが、全員魔法が使えるのかはわかりません。警官が鳥に変身してましたから使えるのでしょうか。

Clann'n Cheoil

魔法界における一部族。“the music people”と描写されている通り、日本語に直訳するなら「音楽族」でしょうか。コーラスによる魔法が使えます。

女王に反抗的だとして、男はカラスに、女性は猫に姿を変えなければいけない。さらに会話では全て韻を踏むこと、という嫌がらせなんだかコントなんだかよくわからないルールを定められています。上記のクロウもこの一族。彼はまだ子どもなので韻を踏むのに四苦八苦していました。

Hare(ノウサギ)とStitcher of worlds

ノウサギは魔法界においてStitcher of worldsと言われ、女王から忌み嫌われています。「世界の裁縫屋」として。

これは恐らく完全な作者の創作ではなく、西欧ではウサギがトリックスター・異界へ誘う者であることからきていると思います。それこそ『不思議の国のアリス』ではウサギを追ってアリスは不思議の国へ迷いこみました。

元々、春の女神エオストレの眷属がHareだったことからウサギは繁栄、春の訪れを表すようになりました。それがキリスト教に取り込まれるにしたがってエオストレの名からイースターの名称のみが、ウサギはトリックスターの象徴だけが残ったのだとか。(イシュタルの説もあり)ここら辺は専門的に詳しいわけではないのでもうちょっと勉強したい。ともかく、作中でRabbitではなくHareだ、と強調されていたのは上記を踏まえてのことなのでしょう。

「歩き方から話し方、歌い方から洋服まで」国民をルールに縛り付ける女王とは、なるほど、相性が悪そうです。

感想

マップとクロウの関係性

もう今年ナンバーワンをあげていいくらい好きな関係性でした。

父は女王に囚われ、母は行方不明。Clann'n Cheoilの大人に面倒を見てもらってはいますが、まだ幼くうまく韻を踏めないせいで魔女たちの目につきやすく、疎んじられているクロウ。

父にも母にも(おばさんにも)愛されて育ち、家が大好きなマップ。彼女は女王の孫という立場から、Clann'n Cheoilからもそこそこ丁重に扱われます。その理由はマップのママに女王を打倒してほしいという下心からなのですが、まあそれはそれ。

マップは最初からクロウにお姉さんとして接します。韻を踏む手伝いをするし、クロウが拗ねた時は優しく寄り添うなど、もはや母性の塊です。弟がいるからなのでしょうか。

対してクロウはマップに対して心を開けません。父を女王に連れ去られた者同士、共感することもあれば、Clann'n Cheoilに邪魔者扱いされないマップを妬むこともあります。

この2人がぎこちなく、それでも関わり合いながら理解を深めていく過程がなんとも初々しく、読んでいて楽しく感じました。

She didn't get a chance to say any more because Crow flung himself at her, and her words were choked by how hard he hugged her.(A glowing Pathより)

クロウが飛びついてきて、マップは何も言えなくなってしまった。ぎゅっと抱きしめられ、息が詰まる。

 ついにはこんなシーンが出てきてしまっては萌え転がるしかないじゃないですか。

手のひらサイズの冒険

マップは世界を救いません。その役目はマップのママにあります。マップも魔法は使えますが、怒りに任せて使ってしまうなど、うまく自分でコントロールできないようです。ただ出来事に翻弄されるまま、魔法界を旅していきます。

途中、幼いマップには辛すぎるような試練もあるのですが、彼女は歩みを止めることはありません。そこがマップの長所であり、非常に好感の持てる部分でした。

マップは魔女に恐怖を感じています。家が大好きだし、魔法界からパパを助け出したらすぐ帰りたいと思っています。

しかしマップは他人のために行動できる子です。読んでいて抱きしめたいと思うこと多々ありました。クロウならこの気持ちがわかってくれるはず。

There's no place like home.

印象が似ている、とはすでに書きましたが、特に『オズの魔法使い』を彷彿とさせる描写がちらほらありました。中でも家に関する話が。

マップは家が大好きです。安心できて、守られていると感じることができる、と本人談。物語が夜の嵐の自宅から始まり、嵐の止んだ朝に終わったのも象徴的です。

けれどマップはドロシーではありません。彼女の出した答えも、ドロシーとは違いました。とてもマップらしいものでした。

物語は続く

今作はシリーズ物の第1作目です。巻末にはすでに次作のあらすじが載っていました。早くも楽しみです。