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レビュー:窓辺のキャンドル

本について 

窓辺のキャンドル アイルランドのクリスマス節

窓辺のキャンドル アイルランドのクリスマス節

 

ジャンル:エッセイ、クリスマス

ページ:253 全18章

あらすじ

アイルランド、コーク地方に住む著者が、子どもの頃に経験したクリスマスと、大人になった現在のクリスマスの思い出を綴ったエッセイ。白黒の写真と共に、伝統的なアイルランドのクリスマス風景が描かれている。

感想

粛々としたクリスマス

クリスマスと言えば何を思い浮かべるでしょうか。ケーキとフライドチキン、BGMにイルミネーションと賑やかな想像をしてしまいます。

でも、この本の中でそうしたクリスマスはほぼ出てきません。本の感想として適切なのかどうなのか、とても静かな雰囲気のある文章でした。古くて寒い家の中、暖炉の近くは暑いなあと思いつつちょっと離れると寒いから我慢して、テレビも何もない空間、著者の話を穏やかに聞いている。そんな気分に浸ることができました。きっと著者が静けさを愛しているからなのでしょう。文章の端々からそれを感じました。

さて、この本で描かれるクリスマスは2つあります。1つ、著者が子どもの頃に経験した伝統的なクリスマス。2つ、大人になってから著者がイニシャノン村で自ら飾り付け祝うクリスマス。前者は、子どもの著者にとって大人から与えられるクリスマスです。母の作るいつもより豪華な夕飯だとか、普段厳格な父の様子だとか。子どもが出来ることはクリスマスカードを書く手伝いをしたり、ちょっとした飾り付けをしたりするくらいのものです。それを著者はとても楽し気に描くんですよね。子どもからしたらクリスマスは特別です。ノスタルジックな文章に、子どもの頃のときめきを思い出しました。いつから私にとってクリスマスは特別でない、ただの365分の1日になってしまったんでしょうか。サンタさんが来なくなってからかな。

対して後者、著者は能動的にクリスマスの準備をします。どこに何を飾りつけようか、飾りに苔を使ったらうまくいくんじゃないかなど考え考え、家をクリスマス仕様にしていきます。ゲストハウスに行ってクリスマスの飾りつけを参考にしているのだからもう筋金入りでは?

何より、クリスマスの準備中、著者は色々な人に思いを馳せます。料理を作っては母親のものと比べたり、飾りをくれた親戚・友人を思ったり。1年に1度、段ボールから飾りを出して家中をクリスマスに変え、近しい人たちとの思い出を振り返る。こうした準備期間こそが最も尊く、クリスマスらしい時間なのかもしれません。

なにより、大人になってもクリスマスは特別に出来るのだと教えてもらいました。

著者の人柄

エッセイを読む時って、著者の人柄が自分に合うかどうかが大事になると思っています。ひたすら友人の話を聞いているのと同じ感じで、話の持っていき方が自分の思考の流れと合っているとか、単純に興味が同じとか、逆に全く違って面白いとか。

その観点でいくと、著者アリス・テイラー氏はチャーミングで飽きない話術を持った魅力的な人でした。自らの幼少期の思い出、クリスマス、住んでいる地域を愛していることが文章の端々から伝わってきて、愛情深い人なのだろうなあと思います。基本的にずっと1人でクリスマスの飾りつけをしている彼女が、ああでもないこうでもない、そういえばこれってどうなんだろう?と思考をユーモアたっぷりに展開していく様がとても好きでした。1人で楽しめる人って良い。

著者・訳者について

アリス・テイラー

北コーク生まれ、結婚後にイニシャノンに移る。今作もコークやイニシャノンでのクリスマスがメインに話されています。ノスタルジックな作風で知られているようです。

高橋歩

新潟出身。アイルランド関連の本を精力的に翻訳されています。