レビュー:Letters to my daughters
本情報・あらすじ
Letters to My Daughters: A mother's love always lights the way home (English Edition)
- 作者: Emma Hannigan
- 出版社/メーカー: Review
- 発売日: 2018/02/15
- メディア: Kindle版
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ジャンル:家族
あらすじ:Brady(ブレイディ)家は父、母、3姉妹の普通の一家だった。父母は仕事を定年退職しダブリンから自然豊かなコネマラ(ゴールウェイ州)へ。長女Beatrice(ベアトリス)はダブリンでウェディング関係の店を運営し成功をおさめていた。次女Jeannie(ジニー)はアメリカ・ロサンゼルスで整形外科医の夫とセレブな生活を送り、その双子Rose(ローズ)は父から受け継いだ家具店を夫と切り盛りしていた。一見幸せそうな家庭に見えるブレイディ家だったが、全員それぞれ人には言えない秘密と不安を抱えていた。
3姉妹がだれより慕っていたナニー・May(メイ)の遺書がきっかけで、家族は各々の秘密に向き合っていくこととなる。
登場人物
Martha Brady(マーサ・ブレイディ)
母。助産師としてフルタイムで働いていた。仕事に生きがいを感じている。
幼いころから実母に虐待されており、自分も同じことを子どもに対してしてしまわないか不安を感じていた。Mayを雇った理由の1つに子どもと距離を置いておきたいからということがある。
Jim Brady(ジム・ブレイディ)
父。3姉妹が世界で1番頼りにしている。優しく気配りのできる男性。
仕事に生きるマーサに代わって子どもたちの面倒を見ようと心がけてきた。
Beatrice Brady(ベアトリス・ブレイディ)
長女。愛称Bea(ビィ)。ダブリンでウェディング関係の店を営む。かつて結婚していたが、相手を愛せず離婚している。
かわいい犬を息子だと思って暮らしてきた。今回あることを決心する。
Jeannie Brady(ジニー・ブレイディ)
次女。アメリカのロサンゼルスで整形外科医の夫と暮らす。パリピ。派手好き。
オープン・マリッジという、夫婦間以外での性行為を互いに認める形をとっているが、それが彼女を苦しめることになる。
Rose Brady(ローズ・ブレイディ)
ジニーと双子。夫と娘Ali(アリ)との3人暮らし。ダブリンに隣接するウィックロー州のPebble Bayに住んでいる。ほぼ専業主婦。ジニーとは対照的に心配性で引っ込み思案。
アリが反抗期に入り、悩んでいる。
舞台
舞台はダブリンかウィックロー州のPebble Bay、もしくはコネマラで展開されます。特にPebble Bayがよく出てきます。美しい場所なんだろうなあという印象でした。
コネマラは自然の豊かさで有名なところです。リタイア後の生活を過ごすには良い場所ではないでしょうか。地図上で見るとダブリンやウィックロー州から離れているように見えますが、アイルランド島は北海道より面積がありません。現に小説内でもコネマラからPebble Bayまで「車で4時間もあれば行ける」と描写されています。
ナニー
ナニーという言葉が日本でどこまで浸透しているのかわかりません。該当する訳語あるのでしょうか。乳母でもないし…。
ナニーは主に幼少期の子どもの面倒を見る存在です。食事の用意をするなどだけではなく、しつけをするのも仕事の一部です。昔は住み込みが基本だったようですが、本作のナニー・メイは自身の家を別に持つ、通いのナニーです。3姉妹はよくナニーの家へ遊びに行っていたという描写も出てきます。
アイルランドにワーキングホリデーへ行くとナニーの募集がわりと多いと聞いたことがあります。余談です。
感想
受け継がれるもの
親の因果が子に報い、ではないですが、この物語の母と娘はそれぞれ呪縛に囚われています。マーサは親から受けた虐待がトラウマとなり、まともな親と子の関わりあいがわかりません。ただ自分と同じ思いをさせたくないから、できるだけ子と距離を取ろうとします。自分が子を殴ってしまったら?という恐怖にずっとおびえていたと言えます。それでも間違いなくマーサは子どもを愛していました。自分よりメイに懐いていると妬くくらい。
しかしその結果、マーサの娘3人はネグレクトされたと感じ、母を嫌います。そして双子の1人ローズは自身の娘アリに対して接し方がわからないと嘆くシーンが出てきます。自分が母から親子として接してもらった記憶がないからと。
虐待を受けて育った子どもは自身の子どもにも同様のことをしやすいと聞いたことがあります。次の世代に受け継がれていってしまうんですね。読んでいる側としては、マーサがどんな思いで子どもたちを傷つけないように苦慮していたか知っているので、初めは3姉妹を無理解だと感じていました。でも3姉妹からしたら、母が自分たちと距離を取っている、それは自分たちのことが嫌いだからではないか?と考えてしまうのも仕方ないのかもしれません。母親の愛がほしい時にもらえなかった心の傷は相当でしょう。
それを埋めるためのナニー・メイだったわけですが、彼女亡き本編で、3姉妹と母は時を経て互いに向き合うことになります。
優しいだけでもない、あたたかい小説
洋書って大体、裏表紙などに新聞のレビューが載っています。本作だと「心温まる小説」など書かれているものが多くありました。確かに読後感はすっきりさわやか、良い話だなあ、となるのですが、その過程はフラストレーションのたまる場面も少なからずあります。特に感情移入して読んでいると登場人物に腹が立ったり可哀そうになったり。作者の描写がそれほど巧みなのでしょう。
この小説においては、大事件が起きる、誰かが劇的に心変わりする、という派手な展開はありません。小さい山をいくつも越えていく感じです。
家族それぞれが迎える結末もまた、ご都合主義のハッピーエンドではありませんでした。ある意味リアリティがあるのかもしれません。それでも、間違いなく良い結末でした。