6&4

アイルランドの本(小説・児童書・YA)を紹介するブログです。

IRISH INDEPENDENT CRIME FICTION BOOK OF THE YEAR 2019ショートリスト

An Post Irish Bool Awardsの犯罪小説部門。

今年は全てのノミネート作品で人が死んでいるという、どう捉えたらいいのか複雑な気持ちになる選出だった。とはいえ、世界観を大切に、細かい部分までこだわりが見える作品が多く、そちらについては流石のひと言。

An Post Irish Bool Awardsについては↓

rokuyon64.hatenablog.com

受賞作品

CRUEL ACTS(by JANE CASEY) 

ジャンル:探偵、殺人

ページ:368

あらすじ:1年前に2人の女性を殺害したとして仮釈放なしの終身刑に処されたLeo Stone。しかし裁判の結果に疑念があるとして再調査がMaeve Karriganに依頼された。ところが似たような状況で別の女性が行方不明となってしまう。模倣犯の仕業なのか、果たして。Maeve Kerriganシリーズ第8作。

著者:ダブリン生まれ。2010年に作家デビューして以来Maeve Kerriganシリーズを書き続けている。他、ヤングアダルトも書く。

8作目ともなればもう不動の人気シリーズだろう。書き出しも安定して面白い。ハラハラさせるような描写である。

ノミネート作品

THE HIDING GAME(by LOUISE PHILLIPS) 

The Hiding Game (English Edition)

The Hiding Game (English Edition)

  • 作者:Louise Phillips
  • 出版社/メーカー: Hachette Books Ireland
  • 発売日: 2019/09/05
  • メディア: Kindle
 

ジャンル:殺人

ページ:400

あらすじ:赤ん坊が死んだ時、近くにいたのは若いナニー(乳母)1人。逮捕されたナニーの弁護人となったHeather Baxterは、事件がそう簡単ではないと睨み調査を開始する。やがてHeatherは25年前に起こった母親の殺人と今回の事件の関連性を見出していく。

著者:ダブリン出身。心理犯罪小説を主に書いている。犯罪小説の創作を教える、文学賞の審査員を務めるなど文壇で活躍中。

冒頭が入れ子式に新聞記事となっていて、出だしからミステリの雰囲気が漂ってくる。やや硬めの文章も本格派っぽくて良い。

THE WYCH ELM(by TANA FRENCH) 

The Witch Elm: A Novel

The Witch Elm: A Novel

  • 作者:Tana French
  • 出版社/メーカー: Viking
  • 発売日: 2018/10/09
  • メディア: ペーパーバック
 

ジャンル:家族

ページ:528

あらすじ:Tobyは楽観的な人だった。しかし強盗に襲われ、致死的ともいえる状況から生還した彼はその性格を一変しようと試みる。傷を癒す為、今は亡き叔父が住んでいた先祖代々の家へ引っ越してきたTobyは、そこの庭に頭がい骨が埋められているのを発見してしまう。

著者:ダブリン在住。エドガー賞や他の有名な賞を獲る人気作家であり、舞台女優としても活躍している。

冒頭がハムレットの引用というだけで期待大。出だしは主人公Tobyがいかに自分はツイているかと語る。1人称の文章からは知性が感じられるし、底抜けのおばかな楽観者というよりは善性が強い故の楽観さに見える。

TWISTED(by STEVE CAVANAGH) 

Twisted: Don’t let murder get in the way of a good story (English Edition)

Twisted: Don’t let murder get in the way of a good story (English Edition)

 

ジャンル:殺人

ページ:320

あらすじ:この本を読む前に3つのポイントを知っておいてほしい。1.私は殺人の疑いで警察に追われている。2.誰も私のことを知らない。3.私が誰か分かったら、次は君の番だ。

著者:ベルファスト出身。法律を学ぶ。Eddie Flynnを主人公に据えたシリーズで有名。昨年も「Thirteen」で同部門のショートリスト入りを果たしている。

あらすじの情報が少なすぎてほぼそのまま訳したものを載せた。すみません…。

書き出しからエッとなり、著者名を二度見し、それからああなるほど、と納得した。こういう仕掛けは大好物である。試し読みだけでもしてみてほしい。

THE CHAIN(by ADRIAN MCKINTY) 

The Chain (English Edition)

The Chain (English Edition)

  • 作者:Adrian McKinty
  • 出版社/メーカー: Mulholland Books
  • 発売日: 2019/07/09
  • メディア: Kindle
 

ジャンル:誘拐

ページ:357

あらすじ:子どもが誘拐された。見知らぬ番号から電話が来る。曰く、電話相手の子どもも誘拐されたらしい。子どもを助ける方法はただ1つ、自身が24時間以内に他の子どもを誘拐してくることだった。さらに自分が誘拐した子どもの親にもまた他の子どもを誘拐させなければ自分の子どもは殺されるという。犯罪は連鎖してしまうのか。

著者:(エイドリアン・マッキンティ)ベルファスト生まれ。北アイルランド紛争時の刑事を主人公にしたショーン・ダフィシリーズが有名であり、邦訳もされている。

あらすじを書いているだけで「子ども」がゲシュタルト崩壊しそうになった。ルールが分かりづらいので整理すると、

A子が誘拐される→Aは24時間以内にB子を誘拐する→Bが24時間以内にC子を誘拐する→A子解放

という流れになる。Aが誘拐を拒否しても、Bが誘拐を拒否してもA子は殺される。不幸の手紙の実行版というやつになるのか。

今作は2月に邦訳が出る予定。出版の早川書房は他のエイドリアン・マッキンティの作品も出しているので納得である。 

ザ・チェーン 連鎖誘拐 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
 

 エイドリアン・マッキンティの「アイル・ビー・ゴーン」は以前ブクログにて感想を書いた。

booklog.jp

REWIND(by CATHERINE RYAN HOWARD) 

Rewind (English Edition)

Rewind (English Edition)

 

ジャンル:殺人

ページ:304

あらすじ:そのコテージのマネージャーは宿泊客の部屋にこっそりカメラを仕掛けていた。その日も唯一の宿泊客をカメラ越しに眺めていたら、不審者がやってきて客を殺してしまった。さらに犯人はこっそり仕掛けたはずのカメラまで破壊していった…。

著者:コーク生まれ。フランスやアメリカでの仕事を経て、専業作家に。最近はトリニティカレッジに通う学生でもある。

章の区切り毎にビデオの再生時間が書いてある。こういう世界観の構築が細部まで行き渡っている本はそれだけで好感度MAX。内容は宿泊客の死へ向かって真実が描かれていく、ひたひた背後から迫ってくる系ミステリーである。こういうのが1番怖い。