6&4

アイルランドの本(小説・児童書・YA)を紹介するブログです。

EASON NOVEL OF THE YEAR 2019ショートリスト

An Post Irish Book Awardsの1部門である、EASON Novel of the Year。

Easonはアイルランドの大手書店(兼雑貨店のような)。ECサイトも持っており、そこではBook of the Monthと称して新刊に力を入れて紹介したり、Bookclubが選りすぐりの1冊を紹介したりするなど本の販促を行っている。

この部門ではおそらくEasonの選んだオススメ本、という立ち位置でノミネートが決まっている気がする。ジャンルが限定されていないせいか、幅広い内容のものが選ばれているのも特徴的。

*An Post Irish Book Awardsについては↓
rokuyon64.hatenablog.com

受賞作

SHADOWPLAY (by JOSEPH O'CONNOR) 

Shadowplay (English Edition)

Shadowplay (English Edition)

 

ジャンル:歴史フィクション

ページ:310

あらすじ:小説『ドラキュラ』の著者ブラム・ストーカー、ハムレット役を演じ有名になった俳優ヘンリー・アーヴィング、その相手役を務め自らも有名になったエレン・テリー。3人の関係を描く。

著者:ダブリン生まれ。フィクションからノンフィクションまで幅広く書き、2012年にIrish PEN賞を受ける。映画化作品もいくつかある、アイルランドを代表するベテラン作家。

さすがと言っていいのか、書き出しから物語に引き込まれる。会話も多く、軽快に読める。ものすごい偏見だが、時代小説は読むのに難儀することが多いのにこれは意外だった。

ブラム・ストーカーは著者と同じくダブリン出身。100年ほど前の同郷の作家に対してはどんな気持ちになるものなのだろうか。日本で言えば尾崎紅葉幸田露伴あたりか。

ノミネート作品

THE RIVER CAPTURE(by MARY COSTELLO)

The River Capture (English Edition)

The River Capture (English Edition)

 

ジャンル:人生、家族

ページ:176

あらすじ:Luke O'Brienはダブリンを離れ、静かな川のほとりで生活していた。しかし、ある女性が生活に入り込んできて、Lukeの人生を変えてしまう。ジェームズ・ジョイスのオマージュをふんだんに盛り込んだ作品。

著者:ゴールウェイ生まれ。短編集で出版デビュー、今回が長編2作目。長編1作目はIrish Book Awardの最優秀賞を獲得している。

表紙の通り、書き出しから爽やかな森の描写が続く。全くわからなかったが、実は最初の文がジェームズ・ジョイスユリシーズ』の書き出しオマージュとなっているらしい。技巧派。

THE NARROW LAND(by CHRISTINE DWYER HICKEY) 

The Narrow Land (English Edition)

The Narrow Land (English Edition)

 

ジャンル:歴史

ページ:384

あらすじ:1950年晩夏、ケープコッド。10歳のMichaelはRichieとその母親と一緒に過ごしていた。ある日、MichaelとRichieは近くに住むカップルと知り合う。2人とカップルは奇妙な友情を築いていく。

著者:ダブリン生まれ。短編や劇の脚本も書く。"The Dublin Trilogy"など有名作品を多数著している。

以前試し読みした時、地の文が難しかったような気がする。その割りに会話になると軽快で読みやすい。非常にバランスのとれた小説なのかもしれない。

この小説はアメリカンドリームも扱っているとのことだが、ケープコッドで少年2人とカップルの友情がどのようにそのモチーフと関わっていくのだろうか。

THIS IS HAPPINESS(by NIALL WILLIAMS) 

This Is Happiness (English Edition)

This Is Happiness (English Edition)

 

ジャンル:成長、歴史

ページ:400

あらすじ:アイルランドの小さな教区Fahaに、変化が訪れようとしていた。まず、昔から降り続いていた雨が止んだ。そして電気の到来、外から来た人がもたらすもの…。失われつつある田舎のコミュニティを、良い面からも悪い面からも美しく描く。

著者:ダブリン生まれ。イギリス文学とフランス文学を学んだ後、現代アメリカ文学を学ぶ。"History of the Rain"が2004年のブッカー賞ロングリスト入りを果たしている。邦訳はデビュー作の「フォー・レターズ・オブ・ラブ」がある。

雨が止まないというシチュエーションは"The Earlie King & the Kid in Yellow"を彷彿とさせる。しかし雰囲気は真逆である。文章はどこまでも優しく、初めの教区についての描写を読んでいると道路の湿った土の匂いがしてきそうなほどだった。とにかく描写が美しい、と他サイトのレビューでも書かれていた。

GIRL(by EDNA O’BRIEN) 

Girl (English Edition)

Girl (English Edition)

 

ジャンル:ナイジェリア、誘拐

ページ:240

あらすじ:「私はかつて少女だった」ナイジェリア北東部で過激派組織ボコ・ハラムに誘拐された少女は、そこで妊娠させられてしまう。暴力で支配されたその組織から逃げ出すが、彼女を待っていたのは辛い現実だった。

著者:クレア出身。女性を主人公にした話を多く書いている。2019年のDublin One City One Book(毎年4月に皆で1冊の本を読もうというイベント)で「カントリー・ガール」が選ばれた。「カントリー・ガール」含め邦訳も多数。

2014年にあったナイジェリア生徒拉致事件を元にしているという。ボコ・ハラムにより女生徒276名が誘拐され、未だ行方不明の生徒が多い。また、この事件だけでなくナイジェリアでは多数の女性がボコ・ハラムにより誘拐され、結婚させられている。

小説家として60年近いキャリアを持つエドナ・オブライエンがこういった、えぐるような作品を書くのは(失礼ながら)意外である。でも、そんな作家だからこそ真に迫るような、そして訴えかけられる作品が書けるのかもしれない。2014年に誘拐された少女たちを解放するよう求める運動も、中々状況に進捗がなく、いつしか忘れ去られてしまっていると聞く。恥ずかしながら私も今回この小説を紹介するにあたってやっと思い出した。物事を風化させないための小説か…。

NIGHT BOAT TO TANGIER(by KEVIN BARRY) 

Night Boat to Tangier (English Edition)

Night Boat to Tangier (English Edition)

 

ジャンル:会話劇

ページ:224

あらすじ:MauriceとCharlieはスペインのアルヘシラス港の暗い待合室にいた。壮年にさしかかった2人が待っているのはMauriceの娘だ。1晩の間、彼らは今まで付き合ってきた25年間を振り返る。

著者:リムリック出身。これまでに長編1つと短編集2つを出版している。今作はブッカー賞のロングリスト入りを果たしている。本としての邦訳はなく、雑誌MONKEYのVol.18で柴田元幸さんが短編を訳されている。

大きめの文字に""を用いない会話が続く。どこか劇のようでもある。古い付き合いである2人のおっさんの会話を読みながら、読者は徐々に2人の過去だとか秘密を知っていく仕掛けになっているっぽい。他の人のレビューを読んでいるとリリカルな文章に人気があるようだ。

 

去年に引き続き、多様な作品がノミネートされている印象。作風も話の雰囲気もそれぞれ全く違う。それにしても今年は全作品おもしろそう。