WRITING.IE SHORT STORY OF THE YEAR 2019ショートリスト
An Post Irish Bool Awardsの短編小説部門。詩の部門に引き続き、こちらもHP上で全文公開されている。
今年はジャンルも作風も様々で読んでいて面白かった。すごく読みやすいのと全く理解ができない(英語的にも内容的にも)ものの両極端だった気がする。個人的には"Balloon Animals"が良かった。他、受賞作品は文句なく面白いし、"The Lamb"も好きな内容。
An Post Irish Bool Awardsについては↓
受賞作品
Parrot(by Nicole Flattery)
ジャンル:不倫、継親子
あらすじ:その「女性」は不倫の末、今の夫と結婚した。ダブリンに居づらさを感じた夫婦はパリに引っ越してくる。女性はパリで懸命に生きようとするが、継子となった9歳の少年が日々問題を起こして学校へ呼び出されるのだった。
作中で固有名が出てくる人物は1人もいない。主人公の「woman(女性)」はどこにでもいる、私かもしれない人物なのだろう。花の都パリの優雅さ、華々しさに対する、女性のひたすら鬱屈した心理描写が秀逸だった。
著者:ウェストミース出身、ゴールウェイ在住。複数誌で小説を発表している。
ノミネート作品
Mother May I(by Amy Gaffney)
ジャンル:精神、妊娠、フェミニズム
あらすじ:カウンセリング室の椅子はMaggieにとって電気椅子のように感じられた。自分は何者になりたいのか分からないまま結婚し、実母にも継母にも孫の顔を見せろと言われ続ける彼女のもやもやした心情を描く。
軽い語り口で書かれていて読みやすい。古い女性観のもとで育てられた主人公は結局、何にもなれず、何になりたいという望みも持てなくなってしまう。しかしこの「何者にもなれないし、なりたい像もない」というのは共感性が非常に高かったなあ。
主人公が話の途中で語るアイルランド(人)観がおもしろかった。
Everyone in Ireland thinks inside of Ireland, about Ireland, about what people think of Ireland. No one likes to rock the boat. They can’t see things differently – they’re always trying to fix things they think are not normal.
どこの国も似たようなものなのかもしれない。
著者:キルデア出身。16歳で出産し、その後大学で文学を修める。詩を中心に書いている。
The Lamb(by Andrea Carter)
ジャンル:同窓会、恋愛、サイコホラー
あらすじ:主人公は海外からはるばるアイルランドまで同窓会のために戻って来た。懐かしい街並みを歩きながら、過去に亡くなった親友のことを思い出す。
恐らくノミネート作品の中で一番文章量は少なかったのではないか。最初は全体像が把握できないまま話が進んでいき、ラストで一気に全容解明、なだれ込むようなラストの展開と犯罪小説作家らしい話運びだった。
著者:トリニティカレッジで法律を学ぶ。犯罪小説を主に執筆している。
Balloon Animals(by Laura-Blaise McDowell)
ジャンル:誘拐、動物愛護
あらすじ:ある日遅い時間に、主人公の目の前で同僚が殺された。何が起きたのか理解できないまま犯人は逃走し、次に見知らぬ男2人がやってきて同僚の遺体と主人公を連れ去ってしまう。
伊坂幸太郎の雰囲気があった。主人公はわざとなのか天然なのか、空気を読まずに誘拐犯へ話し続ける。起こっていることは血なまぐさいのに、主人公の話術のおかげでどこかひょうきんで軽い読み口だった。
著者:Creative Writingで修士号をとる。様々な出版物で作品を発表している。
Sparing the Heather(by Louise Kennedy)
ジャンル:恋愛、人間
あらすじ:Maireadはだんだん自分の家が自分のものでなくなるような感じがしていた。牧歌的な土地を背景に人間模様を描く。
こういう作品は理解が難しい。女性が貧乳と明言されているのは海外小説の中では大分珍しいような気がする。
著者:スライゴ在住。Banshee他、複数の文芸誌に作品を発表している。
A Real Woman(by Orla McAlinden)
ジャンル:懺悔、結婚、女性
あらすじ:ある神父の元に、おかしな男がやってくる。男は神父に懺悔を行い、それの証明書を発行してほしいと言ってとんでもない話をし出した。
恐ろしすぎて自分の誤読じゃないかと疑いたくなる内容だった。人物描写が巧みであるし、地の文で神父は「You」と呼ばれるので自分が神父の横に座って男の懺悔を聞いているような臨場感がある。
著者:短編小説で主に活躍。受賞歴も。