6&4

アイルランドの本(小説・児童書・YA)を紹介するブログです。

DEPT 51@ EASON TEEN/YOUNG ADULT BOOK OF THE YEAR 2019ショートリスト

An Post Irish Bool AwardsのYA(ヤングアダルト)部門。

ファンタジーが多めではあるものの、様々なジャンルがノミネートされている。ただ全体的にほの暗い雰囲気のような気もする。ヤングアダルトはやはりWelcome to Underground.なのか、心の傷を癒したい子が多いのか。

An Post Irish Bool Awardsについては↓

rokuyon64.hatenablog.com

受賞作品

OTHER WORDS FOR SMOKE(by SARAH MARIA GRIFFIN) 

Other Words for Smoke (English Edition)

Other Words for Smoke (English Edition)

 

ジャンル:ファンタジー

ページ:352

あらすじ:家が燃えた。周りの住人も、何が起きたのか分からなかった。知っていたのはただ2人、まだ子どものMaeとRossaだけだった。しかし2人は何も話そうとしない。

著者:ダブリン在住。デビュー作"Spare and Found Parts"は昨年ショートリスト入りしている。

ひたひた迫りくる系ホラー。脚注でちょっとしたコメントが書いてある少し面白い仕掛けの本。ファンタジーで脚注というと『バーティミアス』を思い出す。

ノミネート作品

ALL THE BAD APPLES(by MOÏRA FOWLEY-DOYLE) 

All the Bad Apples (English Edition)

All the Bad Apples (English Edition)

 

ジャンル:マジックリアリズム、家系

ページ:348

あらすじ:Deenaには困った姉Mandyがいたのだが、ある日失踪してしまう。悲嘆にくれる家族の元へMandyから手紙が届くようになった。そこには、家族に不幸が続くのは昔から続く呪いのせいだと書いてあった。Deenaは呪いの根本を探しに行ったというMandyを追い掛けることになる。

著者:ダブリン在住。フランスとアイルランドのハーフ。吸血鬼が出てくるヤングアダルトについて勉強した後、吸血鬼が出てこないヤングアダルトを書くようになる。

書き出しからもう好き……。簡潔にDeenaとMandy、家族の関係性を説明しつつ謎を残して次の文章へ牽引していく。比喩表現も作者の気合が感じられて良い。

作者自身の紹介も面白い。赤ワインと登場人物全員が死ぬような話が好き→フランスの血、ハッピーエンドが好き→アイルランドの血らしい。

THE M WORD(by BRIAN CONAGHAN) 

The M Word (English Edition)

The M Word (English Edition)

 

ジャンル:友情、メンタル

ページ:320

あらすじ:Maggieは毎日親友のMoyaに色んな話をする。Mum(ママ)が職を失ったこと、隠れて泣いていること、ママを元気づけようとしていること。しかしMaggieには分かっていた。ママが泣いているのは悲しいだけではないし、Moyaは数か月前に亡くなっている……。

著者:ダブリン在住、教師としても働く。"The Weight of a Thousand Feathers"で昨年本賞を授与されている。

淡々と1人称で描かれている。"The Weight of a Thousand Feathers"でもそうだったように、傷や秘密を抱え、それでも懸命に生きていく少年少女が主人公になっている。暗い中でも優しい雰囲気のある小説を書く人という印象。

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PERFECTLY PREVENTABLE DEATHS(by DEIRDRE SULLIVAN) 

Perfectly Preventable Deaths

Perfectly Preventable Deaths

 

ジャンル:ファンタジー、超常

ページ:368

あらすじ:この街には秘密がある。引っ越してきた双子のMadelineとCatlinは、ここでの生活で自然と以前より話さなくなっていった。そんな中、Madelineはこの街の異常性に気がつき始める。

著者:ゴールウェイ出身。ヤングアダルトを主に執筆している。それとケーキをこよなく愛している。

アイルランド名物?の双子主人公。アイルランドの小説にはやたら双子が出てくるし、現実多いらしい。

非常に詩的な小説と評されているのを多く見た。オーディオ化されているのもその為だろうか。若干のホラー要素もある気がする。

ALL THE INVISIBLE THINGS(by ORLAGH COLLINS) 

All the Invisible Things (English Edition)

All the Invisible Things (English Edition)

 

ジャンル:LGBT、友情

ページ:320

あらすじ:ロンドンに戻って来たVettyは、幼い頃仲良くしていたPezとの再会を心待ちにする。しかしPezに「君は普通の女の子とは違う」と言われ、Vettyは悩むように。果たして自分は普通の女の子になりたいのだろうか?そして、「普通の女の子」とは?

著者:ダブリン生まれ、現在はサマセットに住む。80年代の少年向け映画が好き。今作は2作目。

書き出しが'My name is Helvetica.'である。フォント好きなら間違いなく引き込まれる1文ではないだろうか。Helveticaは主人公の名前だが、略称のVettyと呼ばれるのを好む。対して友人のPezは本名Peregrine。かっこいい。でも日本語にしてみれば「ハヤブサ」君なわけで、やはり少し恥ずかしいかもしれない。ただHelveticaに比べればPeregrineの方が一般に使われる人名である。

文章はヤングアダルトらしい生々しさがある。それと対比させるようなVettyとPezの純粋な出会いや友情の育み方の描写が良かった。

TOFFEE(by SARAH CROSSAN) 

Toffee (English Edition)

Toffee (English Edition)

 

ジャンル:友情、家族、認知症

ページ:416

あらすじ:家出したAllisonは、空き家らしき所で勝手に忍び込む。しかしそこには住人がいた。Marlaという老年の女性は認知症であり、Allisonを昔の友人Toffeeと思い込む。Toffeeに成り代わってMarlaと付き合っていく内に、Allisonは家族とは何か、自身とは何か考えるようになっていく。

著者:ニューヨーク在住。哲学や文学を勉強していた。数々の賞をとっている有名作家であり、ヤングアダルトや子ども向けを中心に書いている。

キャッチコピーらしき'I am a girl trying to forget. She is a woman trying to remember.'という文章がとても良かった。

Allisonは人の顔色をうかがい、求められる自分を演じてきた。頭が良く優しい10代にはよくあることかもしれない。それの延長でToffeeに成り代わったAllisonは自分が何者なのか段々分からなくなっていく。

詩の形式で書かれていることを高く評価するレビューが多かった。