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レビュー:Normal people

本情報・あらすじ

Normal People (English Edition)

Normal People (English Edition)

 

ジャンル:人生、恋愛

ページ:266

あらすじ:Marianneは少し変わった少女だった。学校でも浮きがちな彼女の唯一の友人がConnell。Connellの母親がMarianneの家政婦をしていたことから2人は話すようになる。
やがて2人は友人とも恋人ともつかない関係性になっていく。高校を卒業し、田舎からダブリンの大学に出てきても2人の関係はどっちつかずだった。感受性が強すぎるがゆえに「普通の女の子になりたい」と願うMarianneと「何者かになりたい」と願うConnellの関係性に焦点を当てた物語。ブッカー賞ロングリスト入り。

登場人物

Marianne

主人公の1人。兄から暴言・暴力を振るわれ、それを黙認する母という、家庭環境に難ありな少女。その影響からか学校でも「変わり者」として浮いてしまっています。唯一会話するConnellも、学校では他人のふり。
孤独な彼女は、いつからか自分を責め始めます。もっと自分が普通の人間だったら、せめて普通の人間の振りをして生きられれば、こんなに苦しむこともなかったのではないか。そんな彼女の唯一の支えがConnellだったのですが、成長するにつれて距離を取ってしまうこともあるわけです。見ているこっちは非常にもどかしい気持ちになります。
物語は彼女が高校生の時から始まり、大学卒業まで続きます。Marianneの精神的成長は読んでいて気持ち良いものでした。今回レビューを書くにあたって最初の方を読み返してみたら、Marianneの成長具合がはっきりわかって一種感動ものでした。

Connell

もう1人の主人公。母がMarianneの家で家政婦をやっている縁で彼女と会話するようになります。クラスでの立ち位置は腰ぎんちゃくというか、周りにくっついて適当に笑って合わせているようなイメージ。いや、明言されているわけではないですが。学校では変わり者扱いされているMarianneと他人のふりをしたいと思うなど、若干いくじなしの部分があるのは明白です。
Marianneと交流のあることを恥ずかしく思いながらも、彼女を大切に思うようになっていきます。その2つともが本心なのが何とも人間臭いというかなんというか。憎めないキャラです。内心は自由なMarianneを羨ましく、そして少しばかり妬んでいるようにも見えました。
ConnellはMarianneのおかげで人生が良い方向に変わっていきます。
一風変わった女の子と、うだつのあがらない男の子というのは、ひと昔前のボーイミーツガールものっぽくもありますね。

Alan

Marianneの兄。登場シーンこそ少ないものの、MarianneとConnellの関係性に大きな影響を及ぼしてきます。そしてもちろん、Marianneの精神面にも。

Lorraine

Connellの母。Marianneの家で通いの家政婦をしています。
朗らかで優しく、息子には時々厳しい好人物です。あまり人を寄せ付けないMarianneもLorraineには親愛の情を持っているようでした。
彼女もそれほど出番があるわけではないのですが、要所要所で出てくること、MarianneとConnellを見守る唯一の大人ポジションということから、印象に残りやすい人でした。

補足

舞台はスライゴからダブリンへ

MarianneとConnellはスライゴの出身です。2人は田舎だと口をそろえて言いますが、描写を見る限りそこまで田舎ではなさそう。地方都市、のようなものでしょうか。
2人は大学進学にあたって首都ダブリンに出てきます。とはいっても、車で2時間ほど走れば帰れてしまう距離。なので物語はダブリンとスライゴを行ったり来たりしながら進んでいきます。

トリニティカレッジ

トリニティカレッジはアイルランド有数の大学です。アイルランド出身の有名人は大体ここ出身。
Connellはここで文学専攻、Marianneは歴史と経済を専攻します。20世紀を代表する作家を複数名排出している大学なので、ここで文学を学べるConnellは光栄でしょうね。羨ましいです。

感想

登場人物が多い

物語が開始した当初は、Marianneの交友関係が狭くその中でしか話は展開していきません。Connellも友人がいるとはいえ、そこまで親しくしている人もそんなにいませんでした。
でもMarianneは徐々に変化していきます。それにはConnellの影響も大きく、学校の友人を作ったり、パーティに行ってみたりするようになります。大学に行くとそれがさらに加速します。ついでに言えば、大学を境にMarianneとConnellの交友関係はほぼ重ならなくなってしまいました。
それに伴い、出てくる登場人物も増えていきます。章の区切り方が全て”○○Later”と、数分~数か月間、章と章の間に空白期間ができるようになっていますので、急に知らない友人が増えているようなこともあります。読者と主役2人の距離感は「たまにしか会わないけど仲良しの友人」な感じですね。

途中でMarianneとConnellの距離が開いた時には、Connell目線が多くなります。いつの間にかMarianneが綺麗になっていたり知らない人たちと歩いていたりして、Connellの驚きを追体験できるようになっています。でもMarianne側に目線が戻ると内面は彼女のままなんですよね。

海外小説を読む時に、登場人物の名前を覚えるのが苦手、という方もいるでしょう。普段あまり苦に思わない私でも混乱するくらい登場人物が入り乱れます。なので、前述した登場人物以外は覚えなくてもさして支障はないかと思います。高校生の時の友達、など簡単な説明は文章中でしてくれていますし。そもそも主眼をMarianneとConnellに置いているので2人以外は乱暴に言って有象無象です。

普遍性が高い

ブクログツイッターの感想で散々書きましたが、今作の1番の特徴が普遍性の高さだと思っています。
家庭環境から己を肯定できず、人とうまく交流できなくて「普通の人になりたい」と嘆くMarianne。なんとなく周りに流されてしまうし、Marianneといると落ち着くくせに周りの目を恐れて堂々とできないConnell。
最初はMarianneの生き方がへたくそすぎてハラハラしました。
この2人、そこらへんにいそうなんですよね。それこそ「一般人」なので、世界を変えたり救ったりはしません。ただ2人の関係性や考え方、交友関係が変わっていくだけです。

どんなコミュニティーに参加していても、もしかして自分は世界にたった1人、孤独を抱えているのかもしれない。そんな風に考えた経験はみんなあります(よね?)。同じ悩みをMarianneもConnellも持っているので、とても共感しながら読めました。

そして、恐らくは2人の内面描写に力を入れているから、普遍性が高くなっているのだと思います。たとえ固有名詞が出てきてもMarianneとConnellが日本から遠く離れたアイルランドで暮らしていても、どこか身近な物語に感じるのですよね。そういう意味ではワールドワイドに読める、矮小な個人の心の物語でした。

著者について

Sally Rooney

1991年、メイヨーのカスルバー生まれ。若い。現在はダブリン在住。

彼女自身もトリニティカレッジで英文学を学んでいます。途中で米文学に変えたようですが。15歳で初めての小説を完成させ、2017年に“Conversations with Friends”で作家デビュー。今作は2作目であり、ブッカー賞ロングリスト入り、An Post Irish Book AwardsではEason Book Club Novel of the Yearのショートリスト入りを果たしています。

彼女の文体はJ.D.サリンジャーと評されることもあるそうです。言われてみれば『フラニーとズーイ』感があるかもしれない。文体も、すっきりして簡易な言葉選びながら意味深なものもあるところが近いような。