レビュー:The Cloak of Feathers
本情報・あらすじ
The Cloak of Feathers (English Edition)
- 作者: Nigel Quinlan
- 出版社/メーカー: Orion Children's Books
- 発売日: 2018/01/11
- メディア: Kindle版
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あらすじ:Brian(ブライアン)の暮らす、Knockmealldown(ノックミールダウン)は魔法や妖精が身近にある不思議な町だった。その町では100年に1度、お祭りの日に異世界から妖精がやってくるという。その100年目にあたる今年、ブライアンは友人のHelen(ヘレン)やDerek(デレク)と一緒に祭りの実行委員として準備を進めていた。
しかしやってきた妖精の王と王妃は何やら様子がおかしい。聞けばかわいい1人娘が行方不明なのだという。そして人間びいきだった娘がいないのなら、町の人間すべてを鳥に変えると言い出した。ひそかに誘拐犯をつきとめたブライアンは、姫の解放をかけて3つの試練へ挑んでいくことになる。
試し読み段階での感想はこちら↓から
登場人物
Brian Nolan(ブライアン・ノーラン)
主人公。12歳、祭りの実行委員(若年部)として、しゃべる牛を捕まえにいく。機転が効き、勇敢ではあるものの普通の少年。ほぼ坊主。
3年前に家族でノックミールダウンへ引っ越してきた。湖の近く、すごく臭い家に住んでいる。
Fester(フェスター)
妖精の姫。しばらく前から行方不明になっている。人間やノックミールダウンの祭りが好きで楽しみにしていた。
The Cloak of Feathers(羽毛のマント)の持ち主。
Helen Kelly(ヘレン・ケリー)
祭りの実行委員(若年部)としてブライアンに同行。乗馬が得意。すごいポジティブ。
パン屋夫婦の姪で祭りには初参加。
Derek Bellamore(デレク・ベラモア)
パン屋の息子。ブライアンの自転車を盗んだので罪滅ぼしに祭りの実行委員(若年部)にされる。口が悪い。けっこうネガティブ。
妖精が来るかどうか半信半疑なわりに、「フェアリーと呼んではいけないルール」には敏感。
Cluaracan(クルーラカーン)
フェスタ―が好きで求婚する。
クルーラカーンは個人名ではなく、妖精(種族?)の名前っぽいですね。同名のアイリッシュ・パブが高円寺にあるようです。
舞台
舞台はもちろんノックミールダウンです。架空の町で(おそらく)アイルランドのどこかにあるのだと推察されます。
町の構造が物語上、結構重要になってきます。引用で町の構造を説明しようと思いましたが、とんでもない量になったので想像図を描きました。こんな拙いので伝わるか微妙ですが…。
ちなみに主人公のブライアンは図右下のGhost Pig Estateに住んでおり、そこについて以下のように述べています。
Ghost Pig Estateに住むか、ドラキュラの館に住むか、アズカバンに入るか選べと言われたら間違いなく僕はにんにくをたっぷり用意してドラキュラを選ぶ。(2章より)
ハーリング
物語上、ハーリングというアイルランドのスポーツのルールを知っているとより楽しめると思います。激しいスポーツとして有名のようです。サッカーのようなラクロスのような。
詳しいルールはWikipedia(ハーリング - Wikipedia)でどうぞ。探せば試合動画も転がってそうですね。ボールとスティックを使った球技です。
感想
Knock me all down
町の名前、ノックミールダウンはなんとなくKnock-meal-downと読んでいました。なのですが、これ、Knock-me-all-downなんですね。ハーリングの試合の場面で気が付きました。叩きのめしてくれ町…?
民話を下敷きにした新しい物語
この本自体は子ども向けで、実際に文章は読みやすく展開も緩急があって楽しく読めるのですが、調べれば調べるほど元ネタが出てきて驚きます。
たとえば、アルスター地方ではフィンヴァラさんという妖精の王様が伝えられています。ハロウィンの夜現れる彼は漆黒のマントを着て、月の光の冠を被っているのだとか。人間がフィンヴァラに連れられて宴会へ参加すると、ある時ふと周りにいるのが全員自分の知っている人たちで、しかもとっくに亡くなっている方ばかりということに気が付きます。その後無事に戻れたり、女性なら7年間妃として仕え、人間界へ戻されると700年経っていたりするなど、結末は様々です。黒い馬を伴うこともあるそうです。
この言い伝え、本を読み終わってから知ると思い当たるシーンが出てきます。一場面一場面がそんな感じなので気が抜けない。
もちろん元ネタをひとつも知らなくても物語自体がおもしろいので楽しめます。物語を楽しみたい人にも、掘り下げて見たい人にも最高の本です。
フェアリー禁止
試し読みの感想でも書きましたが、作品冒頭で妖精たちのことを「Fairy」と呼んではいけないルールが示されます。これ、この作品独特のものなのか、妖精あるあるネタなのかわからずにいたので、妖精学を教えている先生のところまで行って聞いてきました。
曰く、「フェアリー」と呼ばれるのは、私たちにとって「アジア人」と呼び掛けられるのと同じ感覚(らしい)とのこと。フェアリーと呼ばない方がいいのは妖精界の常識だったみたいです。個として付き合ってねということなのでしょうか。
こういうところからも作者の妖精への造詣が深いと伺えます。頭の中をのぞいてみたい。
好感の持てる主人公ブライアン
ブライアンは本当にちょっとニヒルなところもある普通の少年です。彼が絶望したり、ちょっとしたことで喜んだりしながら試練を受けていく様子は自然と応援したくなります。あとデレクとヘレンとのトリオがすごくいい関係なんですよね。ハリー・ハーマイオニー・ロンとはまた違った感じの関係性です。
今後もブライアンを主人公にした物語が読んでみたいと思うような、そんなラストでした。
(余談ですが、別の本で「ブライアンは古臭い名前」と書かれていたのがちょっとかわいそうでした)