EASON NOVEL OF THE YEAR 2020ショートリスト
An Post Irish Book Awardsの1部門である、EASON Novel of the Year。
Easonはアイルランドの大手書店(兼雑貨店のような)。ECサイトも持っており、そこではBook of the Monthと称して新刊に力を入れて紹介したり、Bookclubが選りすぐりの1冊を紹介したりするなど本の販促を行っている。(Easonサイト)
この部門ではおそらくEasonの選んだオススメ本、という立ち位置でノミネートが決まっている。ジャンルが限定されていないせいか、幅広い内容のものが選ばれているのも特徴的。
2020年も多様な小説が選ばれているが、家族や社会を切り取った作品が多い印象だろうか。
*An Post Irish Book Awardsについては↓記事冒頭
受賞作品
STRANGE FLOWERS(by DONAL RYAN)
Strange Flowers: The Number One Bestseller (English Edition)
- 作者:Ryan, Donal
- 発売日: 2020/08/20
- メディア: Kindle版
ジャンル:歴史、家族
ページ:208
あらすじ:1973年、20歳のMollは家からバスに乗り、そして行方不明になった。両親が娘の生存を諦めかけた5年後、Mollは戻ってきた。しかし彼女はどこかが「変わって」しまっていた。
著者:ティペラリー出身。様々な賞をとっている。デビュー作"The Spinning Heart"(邦題『軋む心』)や"From a Low and Quiet Sea"でブッカー賞ロングリスト入りを果たしている。他、大学にて創作小説の講座で教鞭をとっている。
"From a Low and Quiet Sea"は以前感想を書いた。(レヴュー:From a Low and Quiet Sea - 6&4)海の描写が美しく、それだけで読んだ意味があったと思ったのを覚えている。
今回もキャラクターの心情に寄り添った描写が目立つ。あらすじだけ見るとミステリー要素が多く思えるが、書き出しからして娘を唐突に理不尽に失った両親の悲しみ溢れる心情が綴られている。
ノミネート作品
ACTRESS(by ANNE ENRIGHT)
Actress: LONGLISTED FOR THE WOMEN’S PRIZE 2020 (English Edition)
- 作者:Enright, Anne
- 発売日: 2020/02/20
- メディア: Kindle版
ジャンル:母娘、女優
ページ:265
あらすじ:Norahの母は伝説の女優だった。小さな劇場からハリウッドにまで上り詰めたのだ。しかし母のキャリアには暗い秘密が隠されていた。Norahは自身も妻に、そして母親になる中で母の人生を振り返っていく。
著者:ダブリン生まれ・在住。2007年にブッカー賞を受けている。小説の他、ノンフィクションも書く。
かつてのスターを見つめるその娘、といった構図だろうか。Norahの1人称で進んでいく物語は、やたらと人の目を気にしている気がする。スターだった時や今の母の様子を聞いてくる周りの人、そして母の視線。1番身近だったから知っている、あるいは知らない伝説の女優の真実。女優だった母を見つめるNorahを表した表紙が象徴的である。
THE WILD LAUGHTER(by CAOILINN HUGHES)
ジャンル:家族、ケルトの虎
ページ:208
あらすじ:時は2008年。長年続いた好景気「ケルトの虎」は終わりを迎えていた。多くの人が始まった不景気に苦しむ中、Black兄弟もまた経済的危機に瀕していた。当時の人々や国家を鋭い視線で切り取った作品。
著者:"Orchid & the Wasp"でデビュー。数々の賞にノミネート・受賞する。また短編で2019年オー・ヘンリー賞も受けている。"The Wild Laughter"が2作目。
本部門以外にもう1部門でもノミネートされている。
デビュー作"Orchid & the Wasp"は読んだことがある。内容が非常に難解だったが面白かったし、色々と考えさせられる小説だった。今作主人公は捻くれた感じの性格で、一見とても読みづらそうな雰囲気満載である。けれど読み切った先に得るものは多いんだろうな、と思えるくらい個人的には信頼している作家さん。
AS YOU WERE(by ELAINE FEENEY)
ジャンル:家族、病気、余命
ページ:400
あらすじ:Sinéadは意欲的な不動産デベロッパー……だった。致命的な病気が見つかり、彼女はそれを夫にも子どもにも打ち明けられないまま4人部屋に入院することになる。Sinéadは同室の患者と知り合い、それぞれの人生を知っていく。
著者:詩人。大学で教鞭もとっている。今作が小説デビュー作。
小説デビュー作とはいえ、ほぼ散文詩に近いような作品である。過度に開けられた段落間と、時々出てくるやたら長い段落が特徴的。まるで主人公の絶望と混乱がそのまま形として出てきているかのようだった。
THE PULL OF THE STARS(by EMMA DONOGHUE)
ジャンル:歴史、病気
ページ:295
あらすじ:1918年、戦争と病気によって荒廃したアイルランド。Juliaは市の中心部にある病院で看護師として働いていた。そこでは新型インフルエンザにかかった妊婦は隔離されることになっている。人手が足りない中懸命に働くJuliaの元に、警察に追われていると噂の人物がやってくる。生と死を巡る3日間の物語。
著者:ダブリン生まれ。ケンブリッジやオンタリオで過ごす。歴史モノから現代モノまで幅広く執筆している。
あらすじだけでも相当な衝撃を受ける。雨のシーンから始まるのが情緒的。しかしなんともタイムリーな話題の小説である。
HAMNET(by MAGGIE O'FARRELL)
Hamnet: Winner of the Women's Prize for Fiction 2020 (English Edition)
- 作者:O'Farrell, Maggie
- 発売日: 2020/03/31
- メディア: Kindle版
ジャンル:歴史フィクション、シェイクスピア
ページ:372
あらすじ:シェイクスピアの『ハムレット』と亡くなった息子ハムネットを巡る歴史フィクション。1580年代、アグネスはストラドフォード=アポン=エイヴォンに夫と3人の子どもと暮らしていた。息子の1人、ハムネットが11歳で亡くなると、その4年後、夫はある1本の戯曲を作った。
著者:エディンバラ在住。これまでに8冊の本を出している。
シェイクスピアの魅力は時代を経ても共通する人間の心を映し出した戯曲の他に、本人や執筆状況に謎が多いことだと思っている。イギリス文学を読むうえではもはや知らなければお話にならないレベルの人であるが、それを真っ向から取り上げて物語っていくのはとても興味がある。読んでみたい。
受賞作品は11月中旬~下旬頃発表。例年通りなら20日~25日前後だろうか。