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アイルランドの本(小説・児童書・YA)を紹介するブログです。

紹介:The Surface Breaks

本情報 

The Surface Breaks: a reimagining of The Little Mermaid

The Surface Breaks: a reimagining of The Little Mermaid

 

ジャンル:YA、ファンタジー

ページ:320

Kindleだと2章まで試し読みができます。

あらすじ

冷たいアイリッシュ海の底に、人魚の国はあった。Gaia(ガイア)はその国の王女の1人。今日で16歳になるが、姉たちはあまりお祝いしてくれる雰囲気ではない。それもそのはず、15年前の今日、母は人間たちに連れ去られてしまったのだ。

しかしガイアは人間を憎むというよりもむしろ憧れていた。そして人間になりたいと望むが、それには代償が必要だった。

ハンス・クリスチャン・アンデルセンの『人魚姫』を現代、特にフェミニズムの視点から語りなおした物語。

試し読みしての感想

主人公の名前

あらすじにも書いた通り、主人公である人魚姫の名前はGaia(ガイア)です。言わずと知れたギリシア神話における母なる神、大地の象徴ガイアと同じ名前ですね。

人魚姫なのにガイア?と不思議に思っていたのですが、それは作中でちゃんと説明がありました。曰く、人間好きだったお母さんがつけてくれた名前とのこと。

ただお母さんは人間に連れ去られてしまった…との経緯から、ガイア以外の姫、王様は人間を毛嫌いしています。そんな理由から、ガイアはずっとMuirgen(ミュリガン)と呼ばれることに。

Muirgenはアイルランドの神話(アルスター周辺)に出てくる人魚の名前です。鮭の人魚。最初はリーバンという別の名前でしたが、キリスト教に改宗したためにMuirgenの名を与えられました。「海から生まれた者」の意味です。人魚らしい名前です、それこそガイアとは正反対の。

元々の神話でMuirgenが住んでいたとされたのは湖だそうですが、まあそれはそれです。

フェミニズム要素あり?

他サイトでのあらすじに散々フェミニズムの視点から『人魚姫』を書き直した、との描写がありました。試し読みの段階ではその雰囲気はいまいち感じ取れませんでしたが、連れ去られた母とかそのあたりに何かあるのでしょうか。

著者について

1985年生まれ、コーク州出身。ヤングアダルト作家です。

既に複数出版されていて、受賞歴もある人気作家のようですね。文章もすっきりとして読みやすかったです。

紹介:Matchstick Man

本情報

Matchstick Man

Matchstick Man

 

ジャンル:家族、アルツハイマー

ページ:288

Kindleだと2章初めまで試し読みができます。

あらすじ

Julia Kelly(ジュリア・ケリー)は処女作を書いている時に、Charlie(チャーリー)と出会った。20歳年上のチャーリーに、ジュリアは会った当初から魅力を感じていく。2人は意気投合し、やがて夫婦となった。

ところがある時からチャーリーは変わってしまった。ひどく忘れっぽくなり、怒りやすくなった。彼に下された診断はアルツハイマー病だった。チャーリーとジュリア、そして周りの人間の病気に対する苦悩を描いたノンフィクション。

試し読みしての感想

親しい人の豹変

1章はチャーリーの物忘れがひどくなり、車にすら乗れない、シートベルトもしめられない状況が描写されます。続く2章では時が戻ってチャーリーとジュリアの出会いのシーンがジュリアの視点から語られます。

1章の終わりでチャーリーはシートベルトのバックルをCD挿入口に入れようとし、それができないとなるとただじっとジュリアがシートベルトを締めてくれるのを待っています。それを描写するジュリアからとても言い表せない悲愴を感じました。

そして2章ではエネルギッシュで魅力的な、ジュリアが出会った当初のチャーリーが語られます。1章の終わりから2章初めの落差がすごすぎて、きっと身近な人が変わってしまったらこれ以上の衝撃なのでしょう。その原因が本人ではないことも含めて、周りはやるせなさに襲われそうです。

著者について

作家。フィクションを数作出版されていますが、ノンフィクションは今作が初めて。

今はご主人とウィックロー州にお住まいのようです。

紹介:The Night of the Party

本情報 

The Night of the Party (English Edition)

The Night of the Party (English Edition)

 

 ジャンル:ミステリー

ページ:400

Kindleだと2章まで試し読みができます。

あらすじ

1982年1月。Kilmitten(キルミトン)の街では猛吹雪の中、ある家でパーティが行われていた。4人の若者、Tom(トム)、Conor(コナー)、Tess(テス)、Nina(ニナ)は家の裏手に隠れてビールを飲んだり、たばこをふかしたりしていた。その夜、Galvin(ガルヴィン)神父が殺された。

それから35年。警察官となったコナーは父の後を継いでガルヴィン神父殺人事件の行方を追っていた。彼は昔なじみのトムが何かを知っていると踏んだが、口を割ってくれるかわからない。コナーの疑問によって、それぞれの道を歩んでいた4人は再会することになる。

試し読みしての感想

登場人物がいっぱい

読み出しはタイトルにふさわしくパーティの場面からです。ホームパーティに街の人たちがたくさんやってくるのですが、とにかく多い。ただでさえ英語の名前で覚えにくいのにそれが後から後から新登場。街の人たちにしてみれば見知った顔ばかりなのでしょうが、読んでいるこちらは初対面です。確かに、初めて来たパーティで壁の方に立ちながら人々のゴシップに耳をかたむけているような感覚ではありました。

もしどうしても覚えられなくとも、パーティの場面が終わればまさに祭りの後のような雰囲気に。ガルヴィン神父が殺されたことに街の話題は持って行かれ、登場人物もそれほど多くはなくなります。

舞台は架空の街

舞台となるキルミトンは架空の街のようです。あまり大きな街ではなく、噂話もすぐ広まってしまうような感じを受けました。

コナーはここで警官となって過ごすようですが、友人の中には恐らく都会に出て華やかな生活をしている人も。人生いろいろです。

著者について

ジャーナリスト兼作家。主にラジオで活躍されているそうです。

今作が2つ目の作品。

紹介:Emotional Resilience

本情報 

Emotional Resilience: How to safeguard your mental health (The Flag Series Book 6) (English Edition)

Emotional Resilience: How to safeguard your mental health (The Flag Series Book 6) (English Edition)

 

ジャンル:メンタルケア、自己啓発

ページ:289

Kindleだと前書き、1章まで試し読みができます。

あらすじ

 2017年のアイルランドにおける調査では、子どもたちのほとんどが何かしら精神的ストレスを感じ、自殺を考えるに至る子までいると出ている。子どもだけではなく、大人も日々ストレスにさらされているが、そうしたストレスとうまく付き合っていくにはどうすればいいのか。あるいは、ストレスに悩む子どもにどう接すればいいのか。

自己受容の仕方、社会との付き合い方、理不尽さと付き合う方法、ワークライフバランスの取り方を解説した本。

試し読みしての感想

全年齢向け

あらすじでも子どもに焦点をあてて書いてしまいましたが、前書きで作者も断っているようにこの本はどんな年代の人が読んでも有益だろう、とのことです。実際に社会人へ向けてワークライフバランスの章もあるようですし。

ですが、もしストレスに悩んでいる子どもに対して何かしたいと思っているのなら、この本に書いてあることをぜひ実践してみて、とも書いてありました。ただ、本に読んであることを伝えるのではなく、自分でも実践してからのほうがより説得力を持って話ができるそうです。

実践的

この前記事にした「Confidence Kit」よりは、状況における行動方法や考え方など、さらに実際的なことについて書いた本のように感じました。章立てもすべてSkill~となっています。

文章は優しく語りかける雰囲気です。さすがドクター。読んでいるだけで癒し効果がありそうです。

著者について

お医者さんです。メンタルヘルス関係を専門とし、既に本を何冊も出版されています。

紹介:Confidence Kit

本情報 

The Confidence Kit: Your Bullsh*t-Free Guide to Owning Your Fear (English Edition)

The Confidence Kit: Your Bullsh*t-Free Guide to Owning Your Fear (English Edition)

 

 ジャンル:自己啓発

ページ:272

Kindleだと前書きと1章が試し読みできます。

あらすじ

この本は平気な顔をしてライオンの前に出られるような人間が読む必要はありません。……人が生きていくにあたって感じる恐怖。それを乗り越えるのではなく、どうやってうまく付き合っていけばいいのか、そもそも人が恐怖を感じるのはどんな時なのか書いたHow to本。

試し読みしての感想

プレーンな文章

ものすごい分かりづらいたとえをします。ミンティアのような文章です。さわやか。

もう少しわかりやすく言うと英語の教科書に載っている文章に近い気がします。小説ではないので、論理的であまり比喩表現もなくわかりやすい感じがしました。かと言ってひたすらロジカルにいくわけでもなく……作者の優しさがにじみ出ているような、そんな文体です。

でも書名にBullsh*tって入れるのはなんともアグレッシブですね……。

自信と恐怖は表裏一体

肝心の内容は、いかに恐怖心と付き合っていくか、ということになっています。前書きの中で、この本を読むとこういうことが身に付きます、これには役に立ちません、と注意してくれているのは非常に親切。

そこで出てきたのが上記「自信と恐怖は表裏一体」という文章でした。そのためにどういう時に人は恐怖を感じるのかというところから紐解いていくと。実際に論文なども引用しながら説明してくれているのですが、難しい単語もさほどなく、わかりやすいです。

実際にこの本を作る時に「自分は心理学の専門家でもないのに書いていいのだろうか」という恐怖に襲われたことを書いています。そういう部分に好感もっちゃう。

著者について

ジャーナリストやソーシャルメディアの編集者などを経て2017年に1作目を出版。今作が2作目です。とても今風の素敵な女性でした。

1作目は心配とどう付き合っていくか書いた本で、今作と併せて読むとより効果があるのだとか。

紹介:Grace after Henry

本情報 

Grace After Henry: A funny and poignant novel, perfect for fans of Marian Keyes (English Edition)

Grace After Henry: A funny and poignant novel, perfect for fans of Marian Keyes (English Edition)

 

ジャンル:恋愛、死

ページ:432

Kindleだとプロローグ~2章まで試し読みできます。

あらすじ

Grace(グレース)はいつだって恋人のHenry(ヘンリー)と一緒だった。……たとえ、ヘンリーが死んでいても。

ヘンリーが死んだのは2カ月前。以来グレースは心に空いた穴を埋められずにいた。そんな時、Andy(アンディ)に出会う。グレースはどういうわけか、アンディとヘンリーをほぼ同一視してしまう。徐々にアンディへ惹かれていくグレース。それはヘンリーへの裏切りになるのか、グレースは悩んでいく。

試し読みしての感想

2人はラブラブ

構成として、プロローグにてグレース視点、ヘンリー視点。数週間経ったグレース視点から本編が始まります。プロローグで2人は新居を見に行く予定でした。グレースがヘンリーを待っている間、ヘンリーがグレースの元へ向かう間、これでもかというくらいノロケのオンパレードです。2人の出会いは学生時代にさかのぼるそうで、なれそめもたっぷり。

それだけにヘンリーの死がグレースに与えた衝撃は大きなものでした。ヘンリーと住むはずだった家を買い、1人で暮らしはじめます。そして引きこもります。近所の中国人に「夜しか出歩かないなんて吸血鬼なのか?」と聞かれるくらいなので、その塞ぎようはこっちまで悲しくなってくるほど。

お互いここまで想い合える恋人が出来るのは素晴らしいことだと思いつつ、それだけに失ったときの反動が強そうですね。それこそ自分の人生を捨ててしまうくらいには。

すこし不思議?

あらすじを読む限り、ヘンリーは死後、違った形でグレースの元へ現れるみたいです。悲しみのあまり気が狂ってしまったわけではないようですが…その理由などは語られるのでしょうか。ただのロマンス物以外としても楽しめそうです。

著者について

作家・ジャーナリスト。ラジオのパーソナリティを務めていることも。

今作が2作目です。公式HPはこちら→Eithne Shortall – Eithne Shortall

今だとサイトのアイコンがGrace After Henryの表紙の一部になってますね。細かい。

紹介:Our Secrets and Lies

本情報 

Our Secrets and Lies

Our Secrets and Lies

 

ジャンル:家族、母子

ページ:448

Kindleだと3章まで試し読みができます。

あらすじ

1999年。Lucy(ルーシー)は21歳の時、恋人の子を妊娠をしてしまう。恋人のTom(トム)に恐る恐る打ち明け、2人は英国・リバプールに行って中絶手術をする……はずだった。

2016年。双子の母親となったルーシーは、自分の将来と引き換えに生んだ子どもたちが幸せになれるよう人生を捧げていた。子どもたちはそれぞれ夢を抱いていたが、それが思わぬ真実を明らかにする。

試し読みしての感想

2部仕立て

あらすじでも書いたように、前半は1999年、後半は2016年を舞台に展開していきます。1999年はルーシー21歳。2016年ではルーシーの子どもが17歳になっています。

試し読みできる範囲ではルーシーもトムも中絶する気満々だったので、あらすじを読んで驚きました。出版社のあらすじではほぼルーシーの子どものことしか書いていなかったので、物語も子どもたち中心になりそうですね。

アイルランドで妊娠すること

偶然なのかどうなのか、最近読む小説ほとんどで妊娠する女性が出てきます。いつの時代もどこであっても、妊娠が良くも悪くも女性の人生を変えてしまうのは事実でしょう。さらに、アイルランドにあっては法律で中絶が禁止されているため、妊娠は今作のルーシーのように、将来全てを投げうたなければならない、ことを意味します。かといって全員が妊娠したら出産しているわけではなく、隣国英国へ行って中絶をしている方が多いようですね。

それでも中絶の為に外国へ行かなければいけないのは金銭的にも精神的にも負担となります。実際に今作では「もしダブリンで中絶が出来たなら、何事もなかったかのように毎日を続けられるし、トムにも内緒にできるのに」とルーシーの悔やむシーンが出てきます。

こうした問題が小説で描かれているのは大きな社会問題になっているからなのでしょうか。ちょうど今週の金曜日5月25日、アイルランドで中絶禁止法の改正案への投票が行われることになっています。

著者について

ダブリン生まれ、ダブリン育ち。母親も小説家だったようです。パリやロンドンで暮らし、働きながら小説を書いて、後小説家デビュー。

女性向けといいますか、家族を扱った小説が多いですね。表紙がかわいいです。

作者HP→http://www.sineadmoriarty.com/