6&4

アイルランドの本(小説・児童書・YA)を紹介するブログです。

DEPT 51@ EASON TEEN/YOUNG ADULT BOOK OF THE YEAR 2018ショートリスト

An Post Irish Book Awardsの1部門であるDEPT 51@ EASON TEEN/YOUNG ADULT BOOK OF THE YEAR 2018。

ヤングアダルトティーンズ向けの部門です。

An Post Irish Book Awardsについては↓

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受賞作品

THE WEIGHT OF A THOUSAND FEATHERS(by BRIAN CONAGHAN) 

The Weight of a Thousand Feathers (English Edition)

The Weight of a Thousand Feathers (English Edition)

 

Bobby(ボビー)は17歳ながら、病気でほぼ寝たきりの母を介護し、幼い弟の面倒を見る多忙な日々を送っていた。ある時、親の介護をしている少年少女たちの集まりPoztive(原文ママ)に行き、アメリカ風の英語を話すLou(ルー)に出会う。

まだ感想を書けていないのですが、12月に読みました。受賞も納得の面白さ。

介護やLGBTといった重めのテーマを扱いながら物語の面白さで牽引していく、非常に内容のまとまった作品でした。

ノミネート作品

DOCTOR WHO: TWELVE ANGELS WEEPING(by DAVE RUDDEN)

Doctor Who: Twelve Angels Weeping: Twelve stories of the villains from Doctor Who (English Edition)

Doctor Who: Twelve Angels Weeping: Twelve stories of the villains from Doctor Who (English Edition)

 

イギリスの人気ドラマシリーズ、ドクター・フーのスピンオフ小説。悪役側に焦点が当たっているようです。短編12本で、かつクリスマスに関連した話とのこと。

スピンオフモノもノミネートされるとは、ちょこちょこ言っていますが懐の広い賞ですね。

THE SURFACE BREAKS(by LOUISE O’NEILL) 

The Surface Breaks: a reimagining of The Little Mermaid (English Edition)

The Surface Breaks: a reimagining of The Little Mermaid (English Edition)

 

有名な童話「人魚姫」を基にしてフェミニズムの視点から語りなおした物語。人魚姫Gaia(ガイア)は人間になることを夢見ていたが、それには代償が必要で……という筋は全く元ネタと同じです。

以前試し読みの感想を書きました↓

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THE WREN HUNT(by MARY WATSON) 

The Wren Hunt (English Edition)

The Wren Hunt (English Edition)

 

ドルイドには2種類いる。特別な能力を持つaugurと自然と調和するjudge。敵対関係にある2部族は太古から勢力争いを繰り返していた。主人公Wren(レン)は未来視ができるaugurであり、一族のためにjudgeの巣窟へスパイとして潜り込むことになる。

以前読んで感想を書きました↓

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アイルランドの神話とうまく融合した質の高いファンタジーという印象でした。

SPARE AND FOUND PARTS(by SARAH MARIA GRIFFIN) 

Spare and Found Parts (English Edition)

Spare and Found Parts (English Edition)

 

伝染病により体の一部を失った人々に、Nell(ネル)の父はバイオテクノロジーを利用した手足を作ってあげていた。しかしNellの心臓は機械製だ。ある日Nellは砂浜でマネキンの腕を見つける。

ディストピアものですね。YAでこのテーマを持ってくるのか、と思うことが2018年は多かったような気がします。

DARK WOOD DARK WATER(by TINA CALLAGHAN) 

Dark Wood Dark Water (English Edition)

Dark Wood Dark Water (English Edition)

 

Josh(ジョシュ)の兄(か弟)が溺死した。同様に家族を亡くした人たちと共に町の歴史家Naylor(ネイラー)に助けを求める。同時にJoshに不思議な出来事が起こりはじめる。

ホラーっぽいです。溺死とか水とかはやっぱり怖いですよね。水というと何かと死者と結びつけられますし。

 

以上、ノミネート作品でした。社会派の作品が多いでしょうか。私がYAの対象年齢だった時はもっとエンタメ寄りのものが多かった気がする。時代は変わるんですね。青少年のうちからこんな重厚なテーマを読んでいたらどんな大人になるのでしょう。

NATIONAL BOOK TOKENS CHILDRENS BOOK OF THE YEAR (SENIOR) 2018

An Post Irish Book Awardsの1部門であるNATIONAL BOOK TOKENS CHILDRENS BOOK OF THE YEAR (SENIOR) 2018。

児童書の高年齢層向けのものが選ばれます。YAと絵本の中間あたりでしょうか。

An Post Irish Book Awardsについては↓

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受賞作品

BLAZING A TRAIL: IRISH WOMEN WHO CHANGED THE WORLD(by SARAH WEBB & LAUREN O’NEILL) 

Blazing a Trail: Irish Women Who Changed the World

Blazing a Trail: Irish Women Who Changed the World

 

女性パイロット・レディヒース、看護師ネリー・キャッシュマン。女海賊グレース・オマリーに、ダンサーのニネット・ド・ヴァロア……。アイルランドには世界を変えてきた女性がたくさんいる。彼女たちの活躍をイラスト付きで描いた本。

Irish Published Bookでもノミネートされていた作品。アイルランドは世界に羽ばたいた人たちが大勢いるので、その分、世界に影響を与えた女性も多そうです。

フェミニズム運動が何かと話題になった2018年に、この本が受賞したのも納得です。

ショートリスト作品

TIN(by PÁDRAIG KENNY) 

Tin (English Edition)

Tin (English Edition)

 

Christopher(クリストファー)は「ちゃんとした」人間だった。本物の肉体に本物の魂を宿した人間だ。Christopherはエンジニアであり、大親友のロボットを作っていたのだが、ある日事件が起きてしまう。

ジャンルとしてスチームパンクに分類されていたのが衝撃でした。スチームパンク小説って格好良くないですか。

THE TROUBLE WITH PERFECT(by HELENA DUGGAN) 

The Trouble with Perfect (A Place Called Perfect Book 2) (English Edition)

The Trouble with Perfect (A Place Called Perfect Book 2) (English Edition)

 

パーフェクト町シリーズ2作目。前作でArcher(アーチャー)双子から解放されたViolet(バイオレット)と町民は、手に入れた自由を謳歌していた。しかしゾンビが現れ、町はまた大変なことになる。

ティム・バートンのファンにおすすめ、と記載されていました。表紙もそんな感じですね。

THE SECRET SCIENCE: THE AMAZING WORLD BEYOND YOUR EYES(by DARA Ó BRIAIN) 

Secret Science: The Amazing World Beyond Your Eyes (English Edition)

Secret Science: The Amazing World Beyond Your Eyes (English Edition)

 

世の中は科学にあふれている。目に入るものから、日々自分が使っているものまで、著者Daraが詳しく解説する。

児童書でノンフィクションがノミネートされるのは新鮮な気がします。

THE STORM KEEPER’S ISLAND(by CATHERINE DOYLE) 

The Storm Keeper’s Island (English Edition)

The Storm Keeper’s Island (English Edition)

 

Fionn Boyle(フィン・ボイル)の祖父はアランモア島でStorm Keeperをしていた。その魔法の力を外敵から守る仕事だ。しかし退任の時期が迫り、島は新たなStorm Keeperを求めていた。アランモア島にやって来たFionnの周りで騒動が起き始める。

あらすじを書くために他の人のレビューやら何やらを読んでいたらものすごく面白そうでした。読んでみたい。元々著者の祖父がアランモア島に住んでいたことから今作を書こうと思い立ったとのことでした。

THE DOG WHO LOST HIS BARK(by EOIN COLFER & P.J. LYNCH)

Patrick(パトリック)はずっと犬を飼いたいと思っていた。父親を亡くした今年はことさら。一方、犬のOz(オズ)はひどい扱いを受け、吠え方を忘れてしまっていた。傷ついた1人と1匹は心を通わせていく。

アマゾンに画像が無いのはなんでだ。表紙は青い色に少年と小さい犬が見つめ合っているものです。ともかく、絶対感動系です。「ずーっとずっとだいすきだよ」に似た雰囲気を感じました。

 

以上、ノミネート作品でした。フェミニズムやAIとの交流を扱った社会派から科学系、ファンタジーなどこれまた幅広く選ばれている印象です。

NATIONAL BOOK TOKENS CHILDRENS BOOK OF THE YEAR (JUNIOR) 2018ショートリスト

An Post Irish Book Awardsの1部門であるNATIONAL BOOK TOKENS CHILDRENS BOOK OF THE YEAR (JUNIOR) 2018。

児童書の中でも低年齢層向けのものが選ばれます。要するに絵本。

An Post Irish Book Awardsについては↓

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受賞作品

THE PRESIDENT’S CAT(by PETER DONNELLY) 

The President's Cat

The President's Cat

 

大統領が休暇から戻ると、官邸から愛しの猫が消えていた!アイルランド中の人々が猫探しを手伝うことになる。

イラストがかわいい。さてアイルランドは大統領・首相を置いています。大統領は象徴というか、儀式的な職務が多いですね。公用語アイルランド語のため、大統領官邸もアイルランド語でÁras an Uachtaráinと表する決まりです。

現在の大統領はこの前再選したマイケル・D・ヒギンズ氏です。心なしか絵本の大統領と似ている気がしなくもない?

ショートリスト作品

THE FIRST CHRISTMAS JUMPER: AND THE SHEEP WHO CHANGED EVERYTHING(by RYAN TUBRIDY & CHRIS JUDGE) 

The First Christmas Jumper and the Sheep Who Changed Everything (English Edition)

The First Christmas Jumper and the Sheep Who Changed Everything (English Edition)

 

Hillary(ヒラリー)は変わった羊だった。体が虹色の毛でおおわれているし、何よりクリスマスとサンタさんが大好きなのだ。ある日サンタさんが新しい羊毛の上着を探していると聞き、Hillaryは一計を案じる。

何かよくわからんがかわいい。PVもありました。

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THE MAGIC MOMENT(by NIALL BRESLIN & SHEENA DEMPSEY) 

The Magic Moment

The Magic Moment

 

Freddie(フレディ)は初めてのスイミングスクールにわくわくしていた。けれど実際に行ってみたプールは怖くてたまらない。その夜、Nana(ナナ)はFreddieにこっそり秘密の魔法を教えてくれた。

どうやって恐怖を乗り越えるかを教えてくれる絵本ですね。表紙のFreddie、よく見ると恐竜のゴーグルしてるんですよ。欲しい!

HERE WE ARE(by OLIVER JEFFERS) 

Here We Are: Notes for Living on Planet Earth

Here We Are: Notes for Living on Planet Earth

 

この世に生まれた君へ。この世界、地球のことを説明しよう。

これもトレーラー映像がありました。海外の本はこういうの多くあって楽しいです。

www.youtube.com

作者が息子にこの世界を説明するのに苦心した経験から生まれた絵本だそうです。この人のイラスト、とても好きです。

THE POOKA PARTY(by SHONA SHIRLEY MACDONALD) 

The Pooka Party

The Pooka Party

 

Pooka(プーカ?)は高い山に住む不思議な生き物。歌って暮らすことに満足していたが、ある日、少しの寂しさを覚えた。そこでPookaはパーティを開こうと思いつく。

Twitterで言及されていることが多かった印象です。絵だけ見れば「かいじゅうたちのいるところ」に似ているなと思ったのですが、改めて見たらそうでもなかった。

I SAY OOH, YOU SAY AAH(by JOHN KANE) 

I say Ooh You say Aah

I say Ooh You say Aah

 

ロバのパンツがなくなってしまった。一緒に探してあげよう!

えっ頭……。いや、言わぬが花というものです。これは朗読して楽しむ系の絵本です。こだまでしょうか。

 

以上、ショートリスト作品です。しっとりした内容や教訓的なものから、単純に読んでいて楽しめそうな派手な色使い、内容まで幅広くノミネートされています。

レビュー:Travelling in a Strange Land

本情報

Travelling in a Strange Land (English Edition)

Travelling in a Strange Land (English Edition)

 

ジャンル:家族、心理

ページ:176 全2章

あらすじ

大吹雪に見舞われたアイルランド島グレートブリテン島。飛行機も飛ばない中、Tom(トム)は大学の寮で寝込んでいる息子Luke(ルーク)を迎えに行くことになる。車に乗り、フェリーで島を渡り、また車に乗る。独りきりで道を進む内に、Tomは昔のことを思い返していた。

登場人物

Tom(トム)

主人公。中年の男性。妻と息子と娘を心より愛している。

大学の寮で体調を崩した息子を迎えに行くため、大吹雪の中ベルファストサンダーランドのドライブに出る。

ユーモアのセンスがある人物です。音楽好きで過酷なドライブへ行くのにお気に入りのCDを真っ先に用意していました。また、旅先でも様々な人と積極的にコミュニケーションを取るなど人好きのする性格です。そんなTomを悩ませるのが唯一、隠された過去にありました。

Luke(ルーク)

Tomの2番目の息子。サンダーランドの大学に通っている。寡黙なタイプ。

主人公の主観では、昔から何事も長く続かない、無口な子だそうです。登場シーンではあまりそんな風に感じませんでした。普通の好青年です。

Lorna(ローナ)

Tomの妻。家族を心より愛している。少し心配性すぎるところがある。

TomにLukeを迎えに行くようお願いした人物でもあります。物語の起点ですね。とってもかわいらしい性格でした。Tomが羨ましい。

Lukeを心配するあまり電話をかけまくるなど行き過ぎるところもありますが、これは多分、1人目の息子のことがあったからなんでしょう。

Lilly(リリー)

Tomの娘。Lukeとは歳が離れている。

すっっっごくかわいいです。作中での癒しです。言葉を覚えている途中だからか、ダジャレのような謎々を出してきます。かわいい。

Daniel(ダニエル)

Tomの1番目の息子。ドライブ中もDanielの幻影を見るほどTomの心を占めている人物。

こうして登場人物欄に書くのがネタバレにならないか心配なのですが、他サイトのレビューでも言及していたので大丈夫でしょう。というより、前情報なしで読み進めると「急に出て来たDanielって誰???」状態になります。なりました。そこまで徹底的にDanielの情報は伏せられているので、Tomの子どもはLukeとLillyだけという先入観を持ってしまうんですよね。

物語補足

主人公の旅路

北アイルランドベルファストが出発地(自宅)、サンダーランドが目的地(息子の大学寮)です。車とフェリーで実に6時間少々。物語はこの道程を追っていくことになります。

インターネットの発達により、日本にいながらこういう小説に出てくる舞台、道のりも簡単に調べられるようになりました。君たちは良い時代に生まれたことを感謝しなさいよ、とよく大学の先生方に言われたことを思い出します。サンキューグーグル。

それはともかく、グーグルマップで主人公と一緒に旅する気分になるのもおもしろそうです。

主人公の車について

物語を通して登場するのが主人公Tomと、その相棒の車です。車種はトヨタRAV4。ゴツくて雪道も乗り越えてくれそうな頼もしい感じ。

さらに車に搭載されているsatnav(カーナビ)がちょこちょこTomの旅路に口を挟んできます。これが物語上で旅路だけでなくTomの人生とその秘密に関して鋭い指摘をする演出がなされていました。徐々に愛嬌すら感じてきます。

雪について

アイルランドはほぼ雪が降らないそうです。北アイルランドはまだ少し降りやすいとのことですが、それでも雪国ではないレベル。なので今作の状況設定はアイルランド・英国の読者からしても異常です。雪に囲まれてひたすら車を走らせる状況は、若干の異界感が漂っていました。正にStrange Land。

ただ、去年の冬は珍しく大雪が降ったそうです。小説と現実が重なった稀有な例ですね。

感想

全てが終わった後の話

小説を読みだしてから読み終えるまで、一貫して「何も起こらない小説だな」という感想が1番にありました。語弊のないよう言うと、つまらない小説だということではありませんし、何も起らないわけではないのです。ゲームオブスローンズを作っているという人に出会ったり、事故を起こしてしまって困っている人を助けたりしています。でもそれだけです。主人公がとらわれているのは過去であり、今現在起きていることは全て過去の苦悩を呼び覚ますものでしかありません。

そのせいか、主人公に置いていかれている感覚は読んでいる間中、少しだけありました。こっちは主人公の苦悩の解決に立ち会いたい、寄り添いたいと思っているのに勝手に独りで進んでいかれる。そこはかとない無力感がありました。でも、小説ってそもそもそういうものです。自分は何の為に小説を読むのか、何を求めているのか立ち返ってしまいました。そんな力のある小説です。

この小説の雰囲気といい、中年のおっさんが苦悩する流れといい“Solar Bones”に似ているなあと思っていたら、The Guardianのレビューでも同様に指摘されていました。“Solar Bones”がハッピーエンドとは言い難かったため、これも同じになるんじゃないかとハラハラしましたが、終わり方は中々に好きでした。

Travelling in a Strange Land by David Park review – daring and deeply felt | Books | The Guardian

Strange Land

本のタイトルになっている‟Travelling in a Strange Land”は、写真家ビル・ブラントの言葉から取られています。以下引用。

The photographer must have and keep in him something of the receptiveness of the child who looks at the world for the first time or of the traveller who enters a strange country. 

実際の言葉とは若干変えてあるようです。この言葉は小説の最後の最後まで効果をもたらします。始まりと終わりがこうして繋がっているの、とても良い…。このまとめ力はさすがベテラン作家と言えばいいのでしょうか。

常にStrange Landにいるというのは、反面、常に孤独を抱えて生きなければならないということです。Tomは愛する妻、息子、娘がいながら、過去の秘密を抱え孤独の中にいます。それが雪の車内でより鮮明になり、Tomは家路を見失いそうになるのですよね。

ところでTomも写真を生業としています。中でも写真の捉え方についての言及が印象的でした。

They think they always freeze the moment in time but the truth is that they set the moment free from it and what the camera has caught steps forever outside its onward roll.

写真は時を閉じ込めるものではなく、時から解放されて永遠性を獲得するものと。

こんな風にTomの思考は主に家族の思い出を媒介として様々に巡ります。そのひとつひとつが深いものだったり、俗っぽいものだったり。だからなのか、この小説って一言で表すのが難しいように思います。Tomのこういう物の見方はStrange Landへ紛れ込んだ旅人のような気分を味わわせてくれました。

音楽と写真

Tom一家の共通点として、全員が音楽好きというものがあります。登場人物欄でも書いたようにTomはドライブのお供にCDを持って行き、道中あれこれ鳴らして進んでいきます。

そのいくつかをspotifyでリスト化してくれているようです。リンクは著者あとがきにあったので、購入した人だけの特典というわけです。また、小説にインスパイアされて撮ったという写真のリンクもありました。今は小説を五感で楽しむ時代なんですね。

著者について

David Park

1953年、ベルファスト生まれ。

これまで11冊出版されています。特に“The Big Snow”は今作のひな型になったのではないかとの考察がIrish Timesのレビューでされていました。

IRISH INDEPENDENT CRIME FICTION BOOK OF THE YEAR 2018ショートリスト

An Post Irish Book Awardsの1部門である、IRISH INDEPENDENT CRIME FICTION BOOK OF THE YEAR 2018。

その名前の通り、犯罪小説の部門です。出版社のHPを見ていても、Crime Fictionは別にカテゴリ分けされていることが多くあります。それほど人気なのでしょうか。

An Post Irish Book Awardsについては↓

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受賞作品

SKIN DEEP(by LIZ NUGENT) 

Skin Deep: The most gripping thriller of 2018 (English Edition)

Skin Deep: The most gripping thriller of 2018 (English Edition)

 

Cordelia Russell(コーデリアラッセル)は南フランスで優雅な暮らしを送っていた。しかしその生活も破滅を迎えることになる。家へ帰ると腐臭にハエの羽音が聞こえてくる。そろそろ死体をどうにかしなければならない。

試し読みの感想を以前書きました↓

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ショッキングな内容です。こういうのが良かったのでしょうか…。レビューを見ていると主人公Cordeliaは賛否両論ありつつ、目が離せなかったという感想が多くありました。傾国の美女は危ないとわかっていながら、魅力をまた感じてしまうんですよねえ。

ショートリスト作品

HOUSE OF GHOSTS(by W. C. RYAN) 

A House of Ghosts: A gripping murder mystery set in a haunted house (English Edition)

A House of Ghosts: A gripping murder mystery set in a haunted house (English Edition)

 

第1次世界大戦時。戦況が日に日に悪くなる中、Lord Highmount(ハイマウント卿)は行方知れずの息子の為に人を呼んでいた。それぞれが何かしらの隠し事を秘めたまま、1人が死体となって発見される。

眼鏡かけた少年が出てきそうなくらいのクライムっぷりですね。ミステリーでもありスリラーでもありといったような。あらすじを読んでいるだけでぞわぞわしてきます。

THE CONFESSION(by JO SPAIN) 

ある夜、Harry McNamara(ハリー・マクナマラ)がゴルフクラブで襲われた。それも妻Julie(ジュリー)が見ている前で。その1時間後、JP Carney(JPカーニー)が自らを襲撃者だと警察に告白(Confession)してくる。その告白によって事件は終結……とはならなかった。

以前試し読みの感想を書きました↓

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わくわくして先を進めたくなるような文章でした。

ONE CLICK(by ANDREA MARA) 

One Click (English Edition)

One Click (English Edition)

 

Lauren(ローレン)は何の気なしに海岸で撮った写真をネット上にアップした。そのワンクリックが全てを狂わせることになる。Laurenの写真に写っていたという女性からメッセージが届き、慌てて削除するもののメッセージはどんどんエスカレートしていく。さらには私生活でも問題が頻発するように。

非常に現代的な内容です。身近な題材な文、恐ろしく感じそうです。

THE RUIN(by DERVLA MCTIERNAN) 

警官Cormac Reilly(コーマック・レイリー)はある家で2人の子どもを保護する。その家の2階では母親が冷たくなっていた。それから20年。ゴールウェイで自殺者が出た。20年前の事件と関わりがあると踏んだCormacは独り捜査を進めることになる。

他の部門でもショートリスト入りしています。そっちの記事では装丁が違うものの画像を載せましたが、賞公式サイトではこちらの画像が掲載されています。こっちも不穏な様子がにじみ出ていて良い感じです。

THIRTEEN(by STEVE CAVANAGH) 

Thirteen: The serial killer isn’t on trial. He’s on the jury (English Edition)

Thirteen: The serial killer isn’t on trial. He’s on the jury (English Edition)

 

ハリウッドの名物夫婦の妻が殺された。容疑者として浮上したのは夫Rober Solomon(ロバート・ソロモン)。残された証拠すべてがロバートの犯行だと示していた。しかし裁判を進めていく中で奇妙な事件が起こり始める。弁護人についたEddie Flynn(エディ・フリン)はロバートが真犯人であるかどうか疑念を抱くようになっていた。

試し読みの感想を以前↓

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題字でTHIRTEENのIとEが1と3になっているの、いいですよね。しかしシリーズ物でもショートリスト入りできるのが少し不思議です。

 

以上、ショートリスト作品です。身近に迫る恐怖から殺人まで幅広い内容で取り上げられています。真に恐ろしいのは人間の心か。

THE JOURNAL.IE BEST IRISH PUBLISHED BOOK OF THE YEAR 2018ショートリスト作品

An Post Irish Book Awardsの1部門である、THE JOURNAL.IE BEST IRISH PUBLISHED BOOK OF THE YEAR 2018。

アイルランドについて書かれた本が対象となっています。そうしたジャンルだからか、ノンフィクションや自然、歴史系の本が多くノミネートされています。

An Post Irish Book Awardsについては↓
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受賞作品

LIGHTHOUSES OF IRELAND – AN ILLUSTRATED GUIDE TO THE SENTINELS THAT GUARD OUR COASTLINE(by ROGER O’REILLY) 

Lighthouses of Ireland: An Illustrated Guide to the Sentinels that Guard our Coastline

Lighthouses of Ireland: An Illustrated Guide to the Sentinels that Guard our Coastline

 

GPSも何もなかった時代、船乗りにとって唯一の道しるべが灯台だった。アイルランドでは5世紀に灯台(の原型のようなもの)が作られている。それから船乗りは何かあると灯台の光を頼りにしてきた。灯台を中心にアイルランドの歴史を振り返る。

*2018年12月現在紙媒体での販売しかないようです。

前にアイルランド海賊を紹介する本を読みました。そこにもあった通り、そして地図を見てわかる通り、アイルランドは海と共に暮らしてきた国です。ロマンですよねえ。ただその中で灯台に注目するというのは新しいかもしれません。

余談ですが、この本を出版する時に作者か誰かが灯台型クッキー?を焼いていたのが印象に残っています。

THE GREAT IRISH WEATHER BOOK(by JOANNA DONNELLY & FUCHSIA MACAREE)
The Great Irish Weather Book

The Great Irish Weather Book

 

気象学者の著者が子ども向けに、気象に関するあれこれを解説した本。かわいらしいイラスト付き。

*2018年12月現在、紙媒体での販売しかないようです。内容的に当然かなとも思いますが。

英国人と同じように、と言うと怒られてしまうかもしれませんが、アイルランドの人々も天気の話題が好きなようです。著者はMet Éireann(気象庁的なもの)に勤める人で、テレビで気象予報も行っているその道のプロ。

DR HIBERNICA FINCH’S COMPELLING COMPENDIUM OF IRISH ANIMALS(by ROB MAGUIRE & AGA GRANDOWICZ) 
Dr Hibernica Finch's Compelling Compendium of Irish Animals

Dr Hibernica Finch's Compelling Compendium of Irish Animals

 

アイルランド全国を巡り、そこに住む動物に誰より詳しい著者が両生類から哺乳類、海の動物まで解説した本。子ども向けに平易な文、またリアルな絵をふんだんに使って書かれている。

*これも紙媒体のみ。図鑑やイラストが使われているものはどうしてもそうなりますね。

出版社のHPで数ページ、サンプルが見られます。ぼんやり眺めていて良いなと思ったのはアイルランド語でその動物を何と呼ぶか、が書いてあることでしょうか。これはアイルランド語が捗ります。ページレイアウトは研究者のノート風で、子どものテンションもあがりそうです。

PEOPLE ON THE PIER(by MARIAN THÉRÈSE KEYES & BETTY STENSON) 
People on the Pier

People on the Pier

 

ダン・レアリーの埠頭には、世界中から人々が訪れる。そこの歴史と美観を写真と共に綴った本。例によって紙媒体のみ。

ざっとあらすじを読んだ感じ、ソーシャルメディアの企画でもあったようです。埠頭だけでなく訪れる人々にも焦点を当てています。本の題名そのままの紹介になってしまった。

HUMANOLOGY: A SCIENTIST’S GUIDE TO OUR AMAZING EXISTENCE(by PROFESSOR LUKE O’NEILL) 
Humanology: A Scientist's Guide to Our Amazing Existence (English Edition)

Humanology: A Scientist's Guide to Our Amazing Existence (English Edition)

 

アイルランドで激熱な科学者が人間についてウィットを交えながら解説した本。生と死、そしてこれからの人間についてまで語る。

書き出しをちょろりと読んだら、2人の人間と蛇について語っていました。お堅い学術書ではないようです。その後もアイルランドにおける教会の教えなどに寄り道しつつ、きちんと細胞やら何やらの話に移っていました。書き出しで興味を惹きつつ本題に入っていく手法。落語家もかくやでした。

BLAZING A TRAIL: IRISH WOMEN WHO CHANGED THE WORLD(by SARAH WEBB & LAUREN O’NEILL) 
Blazing a Trail: Irish Women Who Changed the World

Blazing a Trail: Irish Women Who Changed the World

 

女性パイロット・レディヒース、看護師ネリー・キャッシュマン。女海賊グレース・オマリーに、ダンサーのニネット・ド・ヴァロア……。アイルランドには世界を変えてきた女性がたくさんいる。彼女たちの活躍をイラスト付きで描いた本。

今年のフェミニズム運動とも相まって、ツイッターで言及されていることが多い本だった印象です。そして児童書のくくりでもあるので、そっちの部門で受賞しています。

 

以上、受賞&ノミネート作品でした。イラスト付きのものが多く、Kindle版でほぼ出ていない・専門家が子ども向けに書いた本というところが共通していそうです。この中で灯台について書いた本が受賞したのは海への関心の高さがうかがえるでしょうか。題材もちょっと斬新ですし。

紹介:Mind on Fire

本情報 

Mind on Fire: A Memoir of Madness and Recovery (English Edition)

Mind on Fire: A Memoir of Madness and Recovery (English Edition)

 

ジャンル:自伝

ページ:288

あらすじ

母の死をきっかけに躁うつ病を発症した著者。舞台脚本家となった後も自殺願望や孤独感に襲われる。ロンドンでホームレス生活まで体験したことを語った自伝。

試し読みしての感想

An Post Irish Book Awardsの記事でも書きましたが、プロローグが一文です。書き出しが文の途中から始まるので一文以下かもしれません。そして2人称で書かれる文に、連想ゲームのような場面転換が続きます。もう脳みそぐるぐる。これは誰の物語だったか、著者のものだったか、自分のものだったか…と混乱していきます。

一転して1章は冷静に始まります。1人称小説のような語り口でした。

著者は週3日働き、後はひたすら舞台脚本を書いている…という状況が説明されます。若干金には困っているようですが、すごくうらやましい生活。ただ、どこか苦しそうな心理描写も入ります。アドバイスを求める人に対して辛辣な回答をしてしまう場面も、嫌な性格と一言で斬って捨てられない何かがありました。とても卑近な存在に感じます。

著者について

Arnold Thomas Fanning

ロンドン生まれダブリン育ち。上述したように舞台脚本を書いていました。本の出版は今回が初めてです。