6&4

アイルランドの本(小説・児童書・YA)を紹介するブログです。

NATIONAL BOOK TOKENS POPULAR FICTION BOOK OF THE YEAR 2019ショートリスト

An Post Irish Book Awardsの1部門である、NATIONAL BOOK TOKENS POPULAR FICTION BOOK OF THE YEAR 2019。

賞の名前の通り、Popular=人気の出た作品を中心にノミネートされている。若干、エンタメよりな気も。

An Post Irish Book Awardsについては↓

rokuyon64.hatenablog.com

受賞作品

ONCE, TWICE, THREE TIMES AN AISLING(by EMER MCLYSAGHT & SARAH BREEN) 

Once, Twice, Three Times an Aisling (English Edition)

Once, Twice, Three Times an Aisling (English Edition)

 

ジャンル:ラブコメ

ページ:416

あらすじ:Aislingは30才に。大人になるということ、結婚、これからの人生。色々な悩みやトラブルと奮闘しつつ、ドタバタしながら彼女は自分の人生を懸命に過ごしていく。Aislingシリーズ3作目。

著者:2人組。共にジャーナリスト。

アイルランドでものすごく人気のあるシリーズなので受賞も納得。まさにPopular。他人のために行動できるAislingの性格が好き、というレビューをいくつか見た。文章は軽快で読みやすい。

ノミネート作品

SEVEN LETTERS(by SINÉAD MORIARTY) 

Seven Letters (English Edition)

Seven Letters (English Edition)

 

ジャンル:家庭、親子

ページ:352

あらすじ:Sarahは毎年、娘のために誕生日の手紙を書いていた。その手紙が7通目になった年、Sarahの妊娠が発覚する。夫、娘、生まれてくる息子と一緒に幸せな家族になれると信じていたが、妊娠から数か月、Sarahは倒れてしまう。

著者:ダブリン出身。ジャーナリストとして勤めた後、作家に。主にロマンス小説を書く。猫とチョコが好き(らしい)。

こんなのあらすじだけで泣けてしまう。身近な人が病に倒れた時、周りは何ができるのか。あるいは、大切な人を残していかなければならなくなった時、自分に何ができるのか。最近、周りで不幸があったこともあり考えてしまう。

SCHMIDT HAPPENS(by ROSS O’CARROLL-KELLY) 

Schmidt Happens (English Edition)

Schmidt Happens (English Edition)

 

ジャンル:風刺、コメディ

ページ:384

あらすじ:今年の大みそかは最悪だ。妻は他人との子どもを出産するし、母は自分に対して復讐心を燃やしているし、息子は何か変なことをやっているし。おまけにラグビーアイルランド代表のヘッドコーチであるジョー・シュミットから電話がかかってきた。

著者:今作の主人公。ジャーナリストPaul Howardによって生み出される。The Irish Timesなどで連載をしている内に、なぜか19冊も本を出していることになってしまった。

また君か。毎年どこかしらの部門でノミネートされているRossシリーズ。大人気だから仕方ない。今作は19作目になる。時事ネタを盛り込んだ軽く読める小説という位置づけだろうか。挿絵も漫画チック。

WHEN ALL IS SAID(by ANNE GRIFFIN) 

When All is Said: The Number One Irish bestselling phenomenon (English Edition)

When All is Said: The Number One Irish bestselling phenomenon (English Edition)

  • 作者:Anne Griffin
  • 出版社/メーカー: Sceptre
  • 発売日: 2019/01/24
  • メディア: Kindle
 

ジャンル:人生

ページ:326

あらすじ:これは一晩で語られた、1人の男の人生の話である。6月、土曜の夜、ホテルでMaurice Hanniganは5杯の酒を注文した。それぞれ1杯ずつを人生で関わった5人に捧げ、Mauriceはその人物との話を物語るのだった。

著者:ダブリン出身。2013年から執筆を始め、短編を主に書いていた。今作で長編デビュー。

とにかく文章が美しい。静かで、物悲しい、老人の歴史の物語である。タイトルも好きだ。When he says all ではなくWhen All is Saidとすることで何となく主人公の過去がペラリペラリと1枚ずつ明らかになっていく感覚がする。

POSTSCRIPT(by CECELIA AHERN) 

ジャンル:ロマンス

ページ:368

あらすじ:前作「P.S.アイラヴユー」から6年。Hollyは新たな人生を歩み出していた。しかしGerryの手紙に感化された人たちがPS I Love You Clubを立ち上げ、Hollyに手伝いを依頼してきた。未来に進むことは過去に置いてきた人たちへの裏切りになるのか。Hollyは再びGerryの死と向き合うことになる。

著者:ダブリン出身。父は元首相。デビュー作「P.S.アイラヴユー」はベストセラーとなり、映画化もされた。 

P.S.アイラヴユー

P.S.アイラヴユー

 

「P.S.アイラヴユー」の出版が2004年。それから15年の時を経て続編が出るというのでかなりニュースになっていた記憶がある。セシリア・アハーンは邦訳も多い有名作家。昨年はShort Story部門のショートリスト入りをしていた。

文章は非常に読みやすい。段落のまとまりごとに空白行が入っている書き方は現代的だなあと思う。

FILTER THIS(by SOPHIE WHITE) 

Filter This: The modern, witty debut everyone is talking about (English Edition)

Filter This: The modern, witty debut everyone is talking about (English Edition)

  • 作者:Sophie White
  • 出版社/メーカー: Hachette Books Ireland
  • 発売日: 2019/09/05
  • メディア: Kindle
 

ジャンル:インスタ、現代

ページ:384

あらすじ:Aliには夢がある。インスタグラムで1万人のフォロワーを獲得し、インフルエンサーになることだ。ある日、妊娠しているフリをしたら1日でフォロワーが千人も増えた。これこそが夢を叶える秘策だとAliは感じるようになる。一方、アイルランドの有名インフルエンサーShellyもまた、インスタでは言えない秘密を抱えていた。

著者:ダブリン在住。何年間もコラム連載を行った後、料理系のエッセイを出版。小説として出版するのは今作が初めて。

現代的な、余りに現代的な。インスタでの成功を目指すあまり私生活が破滅に向かう、という筋書きのようだ。「インスタ世代にこそ読んでほしい」とのレビューもあった。

本文は@有り、絵文字有り、ハッシュタグ有り、くだけた表現有りと、中々読む人を選びそう。インスタグラムやブログに関して、ある程度の知識は前提として書かれている。筆者もインスタなどを日常的に使う人にこそ読んでほしくてこういう文体を選んだのかもしれない。

 

Popularを売れている、と解釈するならこれだけシリーズものがショートリスト入りしているのも頷ける。他には現代的な小説が選ばれている。その時代ならではのものを反映した部門だと感じた。

EASON NOVEL OF THE YEAR 2019ショートリスト

An Post Irish Book Awardsの1部門である、EASON Novel of the Year。

Easonはアイルランドの大手書店(兼雑貨店のような)。ECサイトも持っており、そこではBook of the Monthと称して新刊に力を入れて紹介したり、Bookclubが選りすぐりの1冊を紹介したりするなど本の販促を行っている。

この部門ではおそらくEasonの選んだオススメ本、という立ち位置でノミネートが決まっている気がする。ジャンルが限定されていないせいか、幅広い内容のものが選ばれているのも特徴的。

*An Post Irish Book Awardsについては↓
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受賞作

SHADOWPLAY (by JOSEPH O'CONNOR) 

Shadowplay (English Edition)

Shadowplay (English Edition)

 

ジャンル:歴史フィクション

ページ:310

あらすじ:小説『ドラキュラ』の著者ブラム・ストーカー、ハムレット役を演じ有名になった俳優ヘンリー・アーヴィング、その相手役を務め自らも有名になったエレン・テリー。3人の関係を描く。

著者:ダブリン生まれ。フィクションからノンフィクションまで幅広く書き、2012年にIrish PEN賞を受ける。映画化作品もいくつかある、アイルランドを代表するベテラン作家。

さすがと言っていいのか、書き出しから物語に引き込まれる。会話も多く、軽快に読める。ものすごい偏見だが、時代小説は読むのに難儀することが多いのにこれは意外だった。

ブラム・ストーカーは著者と同じくダブリン出身。100年ほど前の同郷の作家に対してはどんな気持ちになるものなのだろうか。日本で言えば尾崎紅葉幸田露伴あたりか。

ノミネート作品

THE RIVER CAPTURE(by MARY COSTELLO)

The River Capture (English Edition)

The River Capture (English Edition)

 

ジャンル:人生、家族

ページ:176

あらすじ:Luke O'Brienはダブリンを離れ、静かな川のほとりで生活していた。しかし、ある女性が生活に入り込んできて、Lukeの人生を変えてしまう。ジェームズ・ジョイスのオマージュをふんだんに盛り込んだ作品。

著者:ゴールウェイ生まれ。短編集で出版デビュー、今回が長編2作目。長編1作目はIrish Book Awardの最優秀賞を獲得している。

表紙の通り、書き出しから爽やかな森の描写が続く。全くわからなかったが、実は最初の文がジェームズ・ジョイスユリシーズ』の書き出しオマージュとなっているらしい。技巧派。

THE NARROW LAND(by CHRISTINE DWYER HICKEY) 

The Narrow Land (English Edition)

The Narrow Land (English Edition)

 

ジャンル:歴史

ページ:384

あらすじ:1950年晩夏、ケープコッド。10歳のMichaelはRichieとその母親と一緒に過ごしていた。ある日、MichaelとRichieは近くに住むカップルと知り合う。2人とカップルは奇妙な友情を築いていく。

著者:ダブリン生まれ。短編や劇の脚本も書く。"The Dublin Trilogy"など有名作品を多数著している。

以前試し読みした時、地の文が難しかったような気がする。その割りに会話になると軽快で読みやすい。非常にバランスのとれた小説なのかもしれない。

この小説はアメリカンドリームも扱っているとのことだが、ケープコッドで少年2人とカップルの友情がどのようにそのモチーフと関わっていくのだろうか。

THIS IS HAPPINESS(by NIALL WILLIAMS) 

This Is Happiness (English Edition)

This Is Happiness (English Edition)

 

ジャンル:成長、歴史

ページ:400

あらすじ:アイルランドの小さな教区Fahaに、変化が訪れようとしていた。まず、昔から降り続いていた雨が止んだ。そして電気の到来、外から来た人がもたらすもの…。失われつつある田舎のコミュニティを、良い面からも悪い面からも美しく描く。

著者:ダブリン生まれ。イギリス文学とフランス文学を学んだ後、現代アメリカ文学を学ぶ。"History of the Rain"が2004年のブッカー賞ロングリスト入りを果たしている。邦訳はデビュー作の「フォー・レターズ・オブ・ラブ」がある。

雨が止まないというシチュエーションは"The Earlie King & the Kid in Yellow"を彷彿とさせる。しかし雰囲気は真逆である。文章はどこまでも優しく、初めの教区についての描写を読んでいると道路の湿った土の匂いがしてきそうなほどだった。とにかく描写が美しい、と他サイトのレビューでも書かれていた。

GIRL(by EDNA O’BRIEN) 

Girl (English Edition)

Girl (English Edition)

 

ジャンル:ナイジェリア、誘拐

ページ:240

あらすじ:「私はかつて少女だった」ナイジェリア北東部で過激派組織ボコ・ハラムに誘拐された少女は、そこで妊娠させられてしまう。暴力で支配されたその組織から逃げ出すが、彼女を待っていたのは辛い現実だった。

著者:クレア出身。女性を主人公にした話を多く書いている。2019年のDublin One City One Book(毎年4月に皆で1冊の本を読もうというイベント)で「カントリー・ガール」が選ばれた。「カントリー・ガール」含め邦訳も多数。

2014年にあったナイジェリア生徒拉致事件を元にしているという。ボコ・ハラムにより女生徒276名が誘拐され、未だ行方不明の生徒が多い。また、この事件だけでなくナイジェリアでは多数の女性がボコ・ハラムにより誘拐され、結婚させられている。

小説家として60年近いキャリアを持つエドナ・オブライエンがこういった、えぐるような作品を書くのは(失礼ながら)意外である。でも、そんな作家だからこそ真に迫るような、そして訴えかけられる作品が書けるのかもしれない。2014年に誘拐された少女たちを解放するよう求める運動も、中々状況に進捗がなく、いつしか忘れ去られてしまっていると聞く。恥ずかしながら私も今回この小説を紹介するにあたってやっと思い出した。物事を風化させないための小説か…。

NIGHT BOAT TO TANGIER(by KEVIN BARRY) 

Night Boat to Tangier (English Edition)

Night Boat to Tangier (English Edition)

 

ジャンル:会話劇

ページ:224

あらすじ:MauriceとCharlieはスペインのアルヘシラス港の暗い待合室にいた。壮年にさしかかった2人が待っているのはMauriceの娘だ。1晩の間、彼らは今まで付き合ってきた25年間を振り返る。

著者:リムリック出身。これまでに長編1つと短編集2つを出版している。今作はブッカー賞のロングリスト入りを果たしている。本としての邦訳はなく、雑誌MONKEYのVol.18で柴田元幸さんが短編を訳されている。

大きめの文字に""を用いない会話が続く。どこか劇のようでもある。古い付き合いである2人のおっさんの会話を読みながら、読者は徐々に2人の過去だとか秘密を知っていく仕掛けになっているっぽい。他の人のレビューを読んでいるとリリカルな文章に人気があるようだ。

 

去年に引き続き、多様な作品がノミネートされている印象。作風も話の雰囲気もそれぞれ全く違う。それにしても今年は全作品おもしろそう。

An Post Irish Bool Awards2019

説明などは2018年の記事のほぼコピペなので目次を置いておきます。

An Post Irish Bool Awardsとは

アイルランドで最大と言ってもいい文学賞。様々な部門から成る。

2006年から開始された文学賞で、始まりは書店から。賞が出来た目的は簡単で「アイルランド文学で突出した才能を讃え、また広く読者に良い本を届ける。賞の存在によって競合を図る」とのこと。公式サイトには書店向けに「賞に向けて販促するには」みたいなページもあり、アイルランドの出版・書店界を盛り上げようという気概が伝わってくる。

公式サイトはこちら↓

An Post Irish Book Awards

特徴としては、スポンサー提供を受けるものの独立した団体であること、読者からの投票を受け付けていることかしらん。

去年から郵便会社An Postがメインスポンサーに変わったが、公式曰く大成功に終わったとのこと。今年も引き続いてAn Postがメインスポンサーを務めることになった。賞自体の他、部門ごとにもスポンサーの名前が冠されている。

個人的に、毎年一番楽しみにしているこの賞。いろんな部門があってお祭り感が好き。授賞式はアイルランドの公共放送RTÉで放送される。それも結構なゴージャス騒ぎ。

各部門について

16の部門に分かれている。これも公式サイトで一覧になっていて、かつノミネート作品をまとめた何かおしゃれなパンフレットをISSUU(カタログ共有ツール、電子書籍みたいにその場でペラペラめくって読める)で見ることができる。

Eason Novel of the Year

アイルランドの大手本屋(Eason Ireland | Buy Books, Gifts, Audio Books & Stationery)がスポンサー。どういう観点で選んでいるのか明記されていないのでわからないが、バランスよく、話題になった本が選出されているイメージ。

去年はEASON BOOK CLUB NOVEL OF THE YEARという名前だった。地味に名前が変わっているものの、内容としては大差ないだろう。

図書券を発行しているNational Book Tokens。(英国・アイルランド版)がスポンサー。ポピュラーと謳っている通り大衆向けというか、幅広く読まれるものが選ばれている。去年は女性向けのものが多い印象だった。今年はその色は若干薄れている気がする。

去年は英国の大手眼鏡チェーンがスポンサーを務めていたが、今年から変わったらしい。選出される本の雰囲気が変わったのもそのせいだろうか。関係あるのか?

Bookselling Ireland Non-Fiction Book of the Year

ノンフィクションに限定した部門。歴史モノからマインドセットまで幅広い。

スポンサーはアイルランド書店組合的な感じのBooksellers Association - Bookselling Ireland。Irish Book Weekなどのイベントを手掛けるなどしている。これまた去年とスポンサーが変わっている。

去年と変わらずテレビ会社Ireland AMがスポンサーを務めるノンフィクション部門。伝記モノが多いだろうか。

Sunday Independent Newcomer of the Year

新人賞の位置づけ。積読してある本が1冊ノミネートされているので結果が楽しみである。

Independent紙の日曜版がスポンサー。

TheJournal.ie Best Irish Published Book of the Year

アイルランドに関連する本が選ばれる。去年はアイルランドにおける灯台の歴史を綴ったものが受賞していた。

アイルランドのニュース(TheJournal.ie - Read, Share and Shape the News)がスポンサー。

Irish Independent Crime Fiction Book of the Year

賞の名の通り、犯罪小説だけがノミネートされる部門。去年は危ない魅力を持った美女の小説が受賞していたが、今年はどうか。大抵、犯罪小説の表紙はなぜか赤と黒率が高いのに今年のノミネート作品は爽やか系の色も目立つ。

スポンサーは新人賞と(ほぼ)同じくIndependent紙。

Avoca Cookbook of the Year

料理本がノミネートされる部門。昨年からの流れは変わらず、時短系や初心者向けが今年もノミネートされていた。

去年は大手スーパーがスポンサーをしていたが、今年はAVOCAに変更。最初は布製品から始まったらしいカフェや食品を扱う企業で、1700年代創業の古参だそう。

Bord Gáis Energy Sports Book of the Year

スポーツ関係のノンフィクションが選ばれる。これも伝記モノが多いだろうか。

スポンサーは大手ガス会社Gas, electricity, boiler service offers Ireland | Bord Gáis Energy

RTÉ Radio One Listeners’ Choice Award

ラジオのリスナーが候補作を選ぶ部門。今年は5作品しかノミネートされていない。去年のこの部門も含めてノミネートは大体6作品なのでショートリスト数は決まっているのかと思っていた。

スポンサーはもちろんラジオ会社RTÉ。去年は番組名まで賞の名前に載っていたが、今年は削除されている。こちらの方がスッキリ&幅広いリスナーが選べるということだろうか。

Specsavers Children’s Book of the Year (Junior)

児童書の中でも低年齢層向けの部門。要するに絵本である。

ノミネート作家を見ると去年も見たような面々が多い。

スポンサーは英国の大手眼鏡チェーンSpecsavers。去年はPopular部門のスポンサーをしていたので、丁度National Tokenと入れ替わった形。

Specsavers Children’s Book of the Year (Senior)

児童書の中でも若干高年齢層向けの部門。ヤングアダルト(YA)と絵本の中間くらいか。

こちらのスポンサーもSpecsavers。

Dept 51@Eason Teen / Young Adult Book of the Year

ヤングアダルトの部門。去年の受賞作は文句なしに面白かったので今年も期待大。

スポンサーはティーン向けの本やグッズを販売しているDept51。上述EasonのHP内にページを設けている。

Listowel Writers’ Week Irish Poem of the Year

詩の部門。スポンサーのHP上でノミネート作品全文を読むことができる。

スポンサーはListowel Writers' Weekアイルランドの街Listowelでブックフェスティバルを運営している団体。

Writing.ie Short Story of the Year

短編の部門。こちらもスポンサーのHP上で全文を読むことができる。

スポンサーは作家と読者のためのWebマガジンWriting.ieアイルランドの週間ブックランキングを見るのに私もちょこちょこ見に行く。

The Love Leabhar Gaeilge Irish Language Book of the Year

アイルランド語で書かれた本が選出される。去年から新たに加わった部門。

スポンサーは(たぶん)アイルランド語の本を専門に扱う出版社Love Leabhar Gaeilge

受賞作決定までの流れ

ショートリスト発表が10月24日。受賞作発表が明日11月20日となっている。去年は11月27日に発表だったので、1週間ほど早い発表である。

今年は諸事情により本があまり読めなかった。受賞作発表後にチョロチョロとショートリストの紹介を兼ねて読んでいこうと思う。

9月試し読みまとめ

Other Words for Smoke 

Other Words for Smoke (English Edition)

Other Words for Smoke (English Edition)

 

ジャンル:YA(ヤングアダルト)、ファンタジー、ホラー

ページ:352

あらすじ:家が燃えた。周りの住人も、何が起きたのか分からなかった。知っていたのはただ2人、まだ子どものMaeとRossaだけだった。しかし2人は何も話そうとしない。

17歳を子どもと言っていいのか。途中まではこれでホラーなのかとやや拍子抜けの描写が続く。状況説明的。3章くらいから本領発揮、ひたひたと迫ってくるようなホラー描写だった。トイレ行けなくなるかと思った。

The Middle Place 

The Middle Place (English Edition)

The Middle Place (English Edition)

 

ジャンル:人生、死後

ページ:209

あらすじ:Chrisは妻と話していたはずだった。次の瞬間、死んでいた。自分からは妻も、かわいい息子も、仲の良かった友人の言動や心の動きまでがわかる。でも自分の姿は見えない、息も吸えない、誰も気がついてもらえない。やがてChrisは自身の人生を見つめ直していく。

面白かった。死んで身近だった人が嘆き悲しむ様子を見る、という展開はありがちかもしれないが、心の機微がわかったり、時間や距離の概念に縛られないといった立場はやや斬新かしら。途中からは主人公が生前知り合いだった人の様子を見てああだこうだ考えるだけなので少し中だるみ。もしかしたら見るだけで何もできない主人公の心情を追体験させるためにわざとそうしているんだろうか。

Then Again 

Then Again (English Edition)

Then Again (English Edition)

 

ジャンル:詩、絵画、旅

たまには高尚に詩を読もう…と思って試し読み。いやはや詩の技巧は全くわからない。美術館の絵画からインスピレーションを受けたらしい詩がいくつかあった。こういうの好きである。元の絵を見にいきたくなる。

レビュー:幸福の王子

幸福の王子 (ポプラ世界名作童話)

幸福の王子 (ポプラ世界名作童話)

 

ジャンル:児童文学、ファンタジー

ページ:141

あらすじ

町の広場に「幸福の王子」という宝石や金箔で出来た像があった。ある時、1羽のツバメが王子の元へやってくる。(「幸福の王子」)

大男が留守の間、彼の庭は子どもたちの遊び場だった。しかし大男が帰ってくると、高い塀を建てて子どもたちを締め出してしまう。とたんに庭には春が来なくなってしまった。(「わがままな大男」)

その花火は、王子の結婚式で打ち上げられるのを心待ちにしていた。自分こそが最もすばらしい花火だと信じていたのだが……。(「すばらしい打ちあげ花火」)

感想

児童書として

表題作「幸福の王子」は超有名作とだけあって間違いない面白さ。美しいが物悲しい雰囲気は3作どれにも共通して存在する。

しかし「幸福の王子」をはじめとして、どう受け取ったらいいか複雑すぎる話ばかりだ。このいずれかで小学校の授業計画を作れと言われたら難儀しそうである。

哲学的な内容や人間の業を描いていることがその難しさの要因だろう。加えて、「わがままな大男」はキリスト教の知識がないと話の筋すらわからない。そうなると余計複雑になる。

とはいえ、ツバメの優しさはそれだけでも胸を打たれるものがあるし、金銭を持っているから幸せなのではない、という教訓もわかりやすい。「わがままな大男」が改心した結果、周りから愛されるようになったことも理解はたやすいのではないか。

なんというか、読む世代によって受け取るものが違う作品ばかりのように思える。それこそ名作と呼ばれる所以なのかもしれない。

大人が読む児童書として

幼い頃に読んで、今回再読した「幸福の王子」。受ける印象は全く違った。特に王子に対する感情は正反対のものだった。心を入れ替えた王子ですらエゴからは逃れられないのかもしれないと思う。

王子はツバメが「もう飛び立たないと冬になって(死んで)しまう」と何度も言っているにも関わらず彼を引き留め、自分の願いを叶えてもらおうとする。「もういいよ」と言った時には既に遅く、ツバメは飛び立つ力もなくなっていた。今さら言われたって、というやつである。

加えて、王子は貧乏な人に宝石をあげることが良いことだと信じ切っている。宝石を持っていると悟られて強盗にあうかもしれないし、一時の大金に目がくらんで自堕落な生活を送ってしまうものもいるかもしれない。……と思ってしまううのは、心が汚れすぎだろうか。何にせよ、宝石は確かに人を幸せにするだろうが、貧困を生む原因の根本解決にはならない。けれど王子は幸せなのだ。「自分が良いことをした」から。ツバメだけが見返りも見栄も何もなく、ただ純粋に王子の頼みを聞いてあげる。人間はどこまで行っても自分勝手に生きるしかないのか。

 

幸福の王子」はかなり穿った見方をしたが、「すばらしい打ち上げ花火」はどこかのビジネス本にも載っていておかしくないほど大人向けであると思う。

自分がすごい花火だと信じて疑わない打ち上げ花火。しかし打ち上げられなかった花火には何の価値もなく、周りはぞんざいにしか扱わない。その扱いと自尊心の差に気がつかないことは幸福なのだろうか。

 

全体を通して、人間(または擬人化された物)に嫌気がさすような物語ばかりだ。人間は寂しく、自己中心的で、傲慢な生き物なのだと思ってしまう。けれどワイルドはそのままで物語を終わらせることはない。人間以外から与えられる善性が、わずかな光となって話を締めくくっている。非常に19世紀末的な展開だと言ってしまうのは簡単だが、ワイルド自身がこのくだらない世の中に少しでも救いを見出したかったのだろうかと思う。

著者・訳者について

著者:オスカー・ワイルド(Oscar Wilde)

生没年1854~1900年。ダブリン生まれ。例によってトリニティ・カレッジ出身。

様々な文学活動を行い、日本の明治時代文豪にも影響を与えた。一方幼い頃から女装したり、大きくなってからは自ら女装したり奇抜な格好をしていた。結婚し子を授かるも、男色がきっかけで投獄、孤独のまま亡くなる。

訳者:森山京石井睦美

森山京童話作家。「きつねのこ」シリーズなど。

石井睦美:児童文学作家、翻訳家。「そらいろのひまわり」など。

森山さんが2018年に亡くなられているので、恐らくその後を石井さんが引き継がれたのだろう。あとがきは石井さん。やたらと「ワイルドが女装していた」記述が多かったのは…どうしてだ…。

さすが現役作家陣の翻訳と言えばいいのか、「恋は死んだの」など詩的な表現が印象的に選ばれていた。

8月試し読みまとめ

Tunnel Vision 

Tunnel Vision (English Edition)

Tunnel Vision (English Edition)

 

ジャンル:自伝

ページ:304

あらすじ:全く新しい形の自伝。

なんじゃこれは、というのが最初の感想だった。写真・詩・エッセイで構成された本文は意味があるようでないし、繋がっているようで繋がっていない。思考をそのまま垂れ流しているとでも言えばいいのか。正しく読み取れる気が全くしなかった。

Eat The Moon 

Eat The Moon (English Edition)

Eat The Moon (English Edition)

 

ジャンル:家庭、宇宙

ページ:252

あらすじ:アポロが月へ行った時、Kieranの住むCorkの家には、普段滅多に来ない従妹のTamaraが来ていた。人類にとって偉大な1歩も、Tamaraが田舎へなじむのを助けてはくれない。さらに家族は様々な出来事に翻弄されていくようになる。まるで宇宙に放り出された飛行士のように。

月がどうこう~というタイトルだとついセンチメンタルな内容を想像してしまう。が、これはマジな方の月である。アームストロング氏が月に降り立つ壮大な場面と、それを小さな家のテレビで見ている家族の対比が良い。

Irish Aran 

Irish Aran: History, Tradition, Fashion (English Edition)

Irish Aran: History, Tradition, Fashion (English Edition)

 

ジャンル:ノンフィクション、文化

ページ:168

あらすじ:アイルランドの特産品として有名なアランセーター。初めてこれを編んだ人は、まさかこれが後々ニューヨーク近代美術館MoMA)で展示されようとは夢にも思わなかっただろう。アラン編みの歴史とその意義を語る。

こういう、写真や図面をふんだんに使う本をKindle販売してくれるのって意外と少ない。その点、The O'Bien Pressは大体やってくれる。お、珍しくこういうのKindleで出てるんだなあと思うとThe O'Brien Pressなのである。ありがたい。

内容はアラン編みの生い立ちからの歴史、編み目の意味などを語っているようだ。写真も多くあるので編み物好きな人には嬉しいかもしれない。

7月試し読みまとめ

 Can I Say No?

Can I Say No?: One Woman's Battle with a Small Word (English Edition)

Can I Say No?: One Woman's Battle with a Small Word (English Edition)

 

ジャンル:ノンフィクション、ユーモア

ページ:320

あらすじ:小さな頃から、物事が断れない性格だった。仲間に入れてもらえなくなるのではないかとか、気分を害するのではないかとか考えてしまうのだ。そんな著者が"No"と言えるようになるまでの回顧録

Noと言えない日本人と、昔は言われたものだった。かくいう私も物事を断るのは大の苦手だし断られるのはもっと苦手だ。なのでこの著者の気持ちはよくわかる。が、そのことをこうやってユーモアたっぷりに描けるのはただただすごい。

Tomi 

Tomi: Tomi Reichental's Holocaust Story (English Edition)

Tomi: Tomi Reichental's Holocaust Story (English Edition)

 

ジャンル:歴史、戦争

ページ:176

あらすじ:「6歳の頃、未来に恐怖を覚えた」ホロコーストを生き延びた少年、Tomi。彼はどのようにしてあの地獄を生きたのか。

実話。本人はホロコースト生存者として有名な1人。アイルランドに暮らし、ホロコーストでの体験を学校などで語っていたそう。作者ももしかしてそうした話を聞いていた1人だったのかしらんと思うと、物語の存在意義が感じられる。

Live While You Can 

Live While You Can: A Memoir of Faith, Hope and the Power of Acceptance (English Edition)

Live While You Can: A Memoir of Faith, Hope and the Power of Acceptance (English Edition)

 

ジャンル:ノンフィクション、伝記

ページ:320

あらすじ:運動ニューロン病と診断された時、Tony神父はまだ53歳だった。だんだん動かなくなっていく体、近づいていく死への恐怖から、神父が神の愛に目覚めるまでを描いた伝記。

運動ニューロン病の代表的なものと言えばALSだろうか。人間ならだれでも死は避けられないが、思いがけない形でやってきた時に人はどうするのだろう。出来たら500年くらい生きたい。

And Life Lights Up 

And Life Lights Up: Moments that Matter (English Edition)

And Life Lights Up: Moments that Matter (English Edition)

 

ジャンル:伝記

ページ:208

あらすじ:著名な作家アリス・テイラーが日々の暮らしにおけるポジティブな過ごし方を綴った本。

日本でも未知谷から何冊か邦訳版が出ている作家、アリス・テイラー。田舎でのアイルランド暮らしを綴っている。日本語で彼女の本を読んだことがある。とても明るくチャーミングな文章を書く人だった。